下肢閉塞性動脈硬化症/下肢末梢動脈閉塞症

動脈は心臓から全身に血液を運ぶ管です。動脈が狭くなったり詰まると臓器に血液を提供できなくなり、その臓器の機能は低下します。皆さんがよくご存知の脳梗塞や心筋梗塞は頭や心臓の血液が足りなくなって起こる病気です。閉塞性動脈硬化症とは動脈硬化により動脈が詰まり、下肢(脚や足)への血流が悪くなる病気です。それにより以下のような様々な症状が出てきます。糖尿病、喫煙、脂質異常症(中性脂肪コレステロールが高い)、高血圧、慢性腎不全で透析中などでかかりやすくなります。重症になると下肢切断の危険があります。

症状

  • 歩くとふくろはぎが痛くなって、少し休むとまた歩ける。
  • じっとしていても足が痛い。
  • 足の傷がなかなか治らない。
  • 足が黒くなった。
  • 足が冷たい。
  • 足先の色が悪い

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慢性重症下肢虚血(CLTI)の例;足趾壊死

受診するには

血管外科を予約してください。診察後に適切な検査を受けていただき、説明と治療を行います。 まず、お話を聞き、診察(視触診)を行います。その後、必要に応じ検査を行います。

検査機器とその機能

(1)血管超音波検査 = 血管の狭い場所・動脈瘤がわかります
(2)四肢血圧・血流伝播速度測定 = 足の動脈硬化がわかります
(3)脈波装置 = 皮膚の血流がわかります
(4)サーモグラフィー = 皮膚の温度がわかります

血管病を無侵襲に(痛みがなく放射線も使用しないで)診断できる検査室のことを血管ラボといいます。血管ラボは30年前に欧米で始まり、最近日本でも血管ラボの必要性が認識されてきました。心臓病については循環器内科として診療しているため、血管ラボは全身血管病の診断に使用します。
血管病は、世に血管内科という概念がないため外科(血管外科)が診断と治療をともに担当いたします。

治療

血管ラボの検査で閉塞性動脈硬化症と診断されたら、CT検査を行い下肢動脈の撮影を行います。動脈の閉塞または狭窄の場所が10分位の検査で診断できます。 病気の形や場所により内服治療、カテーテル治療、バイパス手術など治療法を選択します。

1.薬物療法

血管を拡張させる薬や血栓ができにくくする抗凝固薬、抗血小板薬 などを症状に応じて内服していただきます。

2.血管内治療(Endovascular therary;EVT)

カテーテル治療と以前呼ばれていたものですが、近年はEVTとの呼び方が一般的です。カテーテルを動脈内に挿入し狭いところや閉塞したところで風船をふくらませ、場合によりステントを置いて再び狭くなるのを防ぎます。多くの患者様は2泊3日入院で行っており、患者さんの負担も少なく入院期間も短くてすみます。また、単に風船で行うだけでなく、治療後再狭窄(治療した部位がまた狭くなることや閉塞すること)を予防するための薬剤溶出性バルーンや薬剤溶出性ステント、下肢動脈用ステントグラフトといった最新式の新規デバイスの適応を考慮し適切に使用しています。これらの活用により非常に再狭窄の少ない良好な治療実績を得ています。

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血管内治療EVTの例 閉塞した右浅大腿動脈(左図)をカテーテル治療で血行再建した(右図)

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末梢動脈用ステントグラフト(上が腸骨動脈用、下が浅大腿動脈用)

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浅大腿動脈用薬剤溶出性バルーン

3.バイパス手術

血管が閉塞していて血管内治療困難例(カテーテルが通らない場合)や血管内治療不適例(大きな足部潰瘍や広範囲な動脈閉塞を伴う下肢安静時痛症例など)に行います。バイパスに用いる代用血管(グラフト、と言います)には、自分の静脈または人工血管を用います。下腿や足部へのバイパスは高度な技術が必要であり、血管外科の中でも施行可能施設が少ないのが現状ですが、当科では以前より施行しています。

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大腿動脈ー後脛骨動脈バイパス

4.血管再生医療(遺伝子治療)

2019年よりHGF(肝細胞増殖因子)を作る遺伝子を下肢筋肉内に注入することで下肢の血流を増やす遺伝子治療薬「コラテジェン®」が認定されました。対象は、難治性潰瘍のある閉塞性動脈硬化症またはバージャー病で血行再建治療が適応にならない患者様です。当科において東京都内第1例目が2019年12月に実施されました。多くの方は血行再建治療が可能であり、一定の投与基準があるため対象となる患者様多くありませんが、手術やカテーテル治療が様々な理由で施行できない方にも切断を避けうる新たな選択肢ができたことは福音です。

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コラテジェン®

まとめ

次のような症状のある方に血管外科の受診をお勧めします。(予約室直通電話 03-3964-4890)

  • 足が冷たい、歩くと徐々にふくろはぎが痛くなる方
  • 足の傷が治らない方
  • 足先が黒くなってる方
  • 動脈硬化があると言われた
  • 脳梗塞の既往や、頚動脈の狭窄、閉塞が疑われる方
  • 心血管危険因子(喫煙、糖尿病、高コレステロール血症など)がある方