認知症による行方不明ーいのちを守るために必要なことー
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我が国の認知症者は2025年に700万人になると予想されています。そして認知症による行方不明者は年々増加し、2020年には17,656人に達し527人が死亡しています。しかし、この人数は警察に行方不明者届が出された人に限っていて、実際はもっと多くの人が行方不明になっていると考えられます。
このような状況を鑑み、福祉と生活ケア研究チームでは認知症による行方不明の研究を行ってきました。ここでは研究から明らかとなった認知症による行方不明の実態と、認知症の方のご家族に参考となる知識と行方不明対策について説明したいと思います。
認知症になると行動・心理症状と呼ばれる様々な状態が生じますが、その中の一つに一人歩きがあります。以前は何の目的も無く歩いていると思われていましたが、現在は本人なりの理由があり歩いていると考えられています。しかし一人歩きと行方不明は違います。一人歩きをしていてもご家族が付添っていたり、本人がGPS(Global Positioning System)と呼ばれる位置情報を知らせる機器を持っていて、ご家族が居場所を把握できれば行方不明とは考えられません。つまり、行方不明とは一人歩きをしてご家族や介護サービス担当者などが本人の居場所を把握できなくなった状態を示すと考えられます。一方、独居認知症高齢者が一人歩きで自分の居場所が分からなくなり家に帰ることができなくなっても、それに気づいてくれる人がいなければ行方不明とは言えません。つまり一人歩きは認知症による行動・心理症状により生じますが、行方不明は社会的に規定される状態と考えられます。なお徒歩に限らず、自転車や自動車、バスや電車などを利用することもあり、ご家族が同居していても一瞬目を離した隙にいなくなることもあります。
では、皆さんはどのような人が行方不明になると思いますか。多くの人が中等度から重度の認知症の人が行方不明になると考えていませんか。しかし、研究から軽度の人でも行方不明になることが分かりました。グラフはFAST(Functional Assessment Staging)と呼ばれる認知機能の程度を示す指標に行方不明者のご家族が回答したものです。中等度以上が多いですが、ご家族から見て軽度あるいは認知症とは思えない状態でも行方不明になることがあります。
研究所では行方不明の死亡に関連する要因を研究してきました。その結果、行方不明から発見までの期間が長いこと、行方不明時に独居であることが発見時の死亡と関連していることが分かりました。行方不明になってから翌日までは生存して発見される例が多いですが、3日目以降では生存する可能性は急激に低くなります。独居の場合、行方不明になったことに気づくのが遅れ、それが捜索開始の遅れにつながり、結果として発見の遅れにつながると考えられます。
また、死因は溺死と低体温症が多いことが分かっています。そして死因には認知機能の程度が関係していることが分かりました。溺死は水の中への転落であり広義の意味で事故と考えられます。それに対して低体温症は屋外で長時間過ごし体温の低下が生じた結果としての死亡です。
認知機能の低下が重度であると危険を回避する能力が低下し事故に遭いやすくなり、その結果として溺死が多くなると考えられます。しかし、事故の中で何故溺死が多いのかはまだ分かっていません。
それに対して、認知機能の低下が軽度であると危険を回避する能力がある程度維持されているため事故に遭いにくくなります。しかし、誰からも保護されることなく長時間一人歩きをすることにより低体温症で死亡すると考えられます。
認知症による行方不明は何時発生するか分かりません。ではどうすれば良いのでしょう。
認知症の人のご家族は、軽度の認知症でも行方不明になること、行方不明は何時発生するか分からないことを意識しておく必要があります。これは実際に行方不明になった時に慌てずに対応するために必要なことです。なお、行方不明者を発見した人の半数は探していた人ではなく偶然見つけた人です。もし様子がおかしい高齢者を見つけたら勇気を出して声をかけてみて下さい。その一声が認知症高齢者の命を救うかもしれません。
認知症の人のご家族は、軽度の認知症でも行方不明になること、行方不明は何時発生するか分からないことを意識しておく必要があります。これは実際に行方不明になった時に慌てずに対応するために必要なことです。なお、行方不明者を発見した人の半数は探していた人ではなく偶然見つけた人です。もし様子がおかしい高齢者を見つけたら勇気を出して声をかけてみて下さい。その一声が認知症高齢者の命を救うかもしれません。
認知症の人のご家族は、軽度の認知症でも行方不明になること、行方不明は何時発生するか分からないことを意識しておく必要があります。これは実際に行方不明になった時に慌てずに対応するために必要なことです。なお、行方不明者を発見した人の半数は探していた人ではなく偶然見つけた人です。もし様子がおかしい高齢者を見つけたら勇気を出して声をかけてみて下さい。その一声が認知症高齢者の命を救うかもしれません。
粟田主一、菊地和則、伊集院睦雄、鈴木隆雄:徘徊などで行方不明となった認知症の人に関する実態調査〈追補版〉.厚生労働科学研究費補助金
厚生労働科学特別研究事業 認知症高齢者の徘徊に関する実態調査 平成26年度総括・分担報告書、1-123、2015.
菊地和則、伊集院睦雄、粟田主一、鈴木隆雄:認知症の徘徊による行方不明者の実態調査、老年精神医学雑誌、27(3)、323-332、2016.
菊地和則、伊集院睦雄、粟田主一、鈴木隆雄:認知症の徘徊による行方不明死亡者の死亡パターンに関する研究、日本老年医学会雑誌、53(4)、
363-373、2016.
Kikuchi, K., Ijuin, M., Awata, S., Suzuki T.:Exploratory research on outcomes for individuals missing through dementia wandering in Japan,
Geriatr Gerontol Int 19(9): 902-906, 2019.
菊地和則、大口達也、池内朋子、粟田主一:独居認知症高齢者の行方不明の実態-150事例からの報告-、老年精神医学雑誌、469-479、2021.
警察庁資料及び厚生労働省資料