東京都健康長寿医療センターの井上 聡 研究部長は、千葉大学大学院医学研究院の永野 秀和 特任助教、田中 知明 教授らのグループ(分子病態解析学)との共同研究にて、がんの抑制に重要な因子としてミトコンドリア超複合体に会合するDPYSL4を見出し、その作用メカニズムを明らかにしました。
ヒトのがんの多くで変異を認めるがん抑制遺伝子p53は、様々な抗酸化物質、アポトーシス誘導分子、細胞増殖の阻害因子など転写活性化することで、がん抑制作用を発揮します。最近では、がん研究を越えて、肥満や動脈硬化など生活習慣病にも関わることが示されていますが、その分子メカニズムは十分に明らかにされていませんでした。本研究グループが、ゲノムワイドの解析から同定したDPYSL4は、p53によって誘導を受けますが、がん細胞と脂肪細胞に共通して認められ、がん組織や肥満の脂肪組織にも発現していることが分かりました。さらに、エネルギーの産生工場であるミトコンドリアの「呼吸鎖超複合体」と呼ばれる構造に働きかけ、細胞のエネルギー・代謝調節作用を発揮することで、がん抑制や生活習慣病に関わることを明らかにしました。
本成果は、米国科学誌「Proceeding of the National Academy of Sciences」に、2018年7月30日 15時(米国東部時間)に掲載されます。
"p53-Inducible DPYSL4 Associates with Mitochondrial Supercomplexes and Regulates Energy Metabolism in Adipocytes and Cancer Cells "
(p53下流遺伝子DPYSL4は、脂肪細胞とがん細胞でミトコンドリア超複合体に会合し、エネル ギー代謝を制御する)