第50話 折々の記(その6)

折々の記(その6)
 
グルメ 後編

 私は信州出身である(松本など中南信:大筑摩県の出身者は長野県とは言わない)。大筑摩県は、中南信と岐阜にまたがる山岳の一大県であったが、県庁火災で長野県に併合された。これに反対する中南信出身の議員たちが「独立」を叫んで県議会は大荒れとなったが、どこからか湧き上がった「信濃の国」の大合唱によって、長野県が承認されたと言い伝えられている。
 県民は誰でも8番まである「信濃の国」最後まで誦じている。

 さて、そんな信州のグルメといえば、蜂の子、ざざ虫、イナゴ、カエル、岩魚である。最後のものを除いて、皆さんはあまり馴染みがないであろう。
 「信州坊主」という赤坂の信州そばの名店は「ざざ虫」が名物であった。ざざ虫は、天竜川の岩に住むカワゲラの幼虫の佃煮である。そばと一緒に日本酒で楽しむのは通の掟であった。ある時、偉い方を招待したが、眉を顰められただけであった。懐が狭いのかと思ったが、次に信州の知人が「今年はとてもいい蜂の子が取れた」と言って土産にくれたことから、夫婦で楽しもうとしたところ、やんわり遠慮された。そういえば、米国留学のおり、レオナードシェア主任教授にお土産の蜂の子をあげたところ、「It's larva」と叫び、幼虫やウジを見るような目で拒否されたことを思い出した。
 食品多様性はフレイルなどにいいとされている。昆虫の多様な摂取もいいに違いないが、栄養学者や国民の理解は未だ不十分である。
 信州坊主もカエルを出していた高円寺の店も潰れてしまった。
 誠に残念である。

      ざざ虫             蜂の子