認知症なんでも相談室(その1)
物忘れ外来に従事していると、以前は待ち日数も多いことから、皆嫌がらず希望が殺到していると思い込んでいた時期もあった。確かに需要は多いが、外来に来るまで、来てから、帰宅してから多くの悩みがあって小一時間では十分に対応できていないことが後から少しずつわかってきました。
このシリーズでは、多く寄せられた「困りごと」に対して、エビデンスのないものも含め筆者の経験的解決案をお示しすます。ただし万人に当てはまることはもちろんないため、まずはやってみて上手く当たれば上出来程度に考えて下さい。
○外来に来たがらない
「こんにちは。よくいらっしゃいました。何か困っていますか?」
「何も困っていない。こいつがしつこく言うから来てやったんだ。」
「そうですか。物を置き場所がわからなくなったり、人の名前が思い出せないとか不便はないのですか?」
「それはあるが歳だからね」
「そうですね。でも、物忘れが進んで、奥様に生活の面倒をかけるのは嫌ですよね?」
「それは困る」
少しでも同意が得られれば以下は通常の診察に移って、ほとんどの場合スムーズである。
問題は、家では、「どこも悪くない、俺を病人(ぼけ)扱いするのか?」と言って取り憑くしまがない時である。 近年はテレビをはじめ、情報啓発で、当事者の方の理解も進んだが、周囲や社会の「おかしい」といった偏見はまだまだ根強い。本人が少し自覚していることは、初期であればあることが多いが、周りからの視線への恐れ(不安)、できていたことが上手にできない急(焦燥)からより強く否定的な態度に出ることも少なくない。
当事者の目線で、入りやすい、受け入れやすい受診勧誘をしたいものだ。
それには
1)歳を経るとともに避けがたい、ありふれた、受け入れやすい病気から話題に
2)早期発見で改善が見込まれる(こともあるが、ない場合もある)
3)精密な健康診断にもなる
がいい説明である。
具体的には、血圧が高い、糖尿病がある、運動習慣がない、喫煙者、晩酌、食べ物に好き嫌いが多い、最近頭を使っていない、退職後にご近所/友人付き合いが大幅に減ったなど、どれかに当てはまる場合、体の衰えに結びつき、動脈硬化のリスクにもなることから「脳卒中で寝たきりになる人はまだまだ多いんですって」、「隠れ脳梗塞と言って詳しく検査しないと自覚症状は少ないんですって」、「ほっておくと認知症が進むこともあるんですって」、「予防もできるんですって」、「体と、頭の健康診断が一度にできるそうよ」などといったの中から、上手くいきそうなフレーズを選んで話してみて下さい。
東京都健康長寿医療センターのもの忘れ外来では、外来終了時にご本人から「また来たい」「もっと沢山来たい」などの言葉をいただくことが、外来医師の冥利につきます。
一度来ていただければ、もう大丈夫です。