第173号

アルツハイマー病新薬・レカネマブについて解説します

緩和ケア内科のご紹介

アルツハイマー病新薬・レカネマブについて解説します

副院長(脳神経内科部長(診療科長)兼務)
岩田淳(いわた あつし)

 10 月より荒木副院長の後任として就任いたしました。岩田淳と申します。専門は脳神経内科です。当センターには2020 年4 月より勤務しております。当科では脳卒中、パーキンソン病、アルツハイマー病、てんかん、頭痛といった非常に患者数の多い疾患から神経難病の様に患者数は少ないながら専門性の高い疾患まで幅広く診療しています。私自身の外来に初診される患者さんの多くは歩行の障害、もの忘れといった御訴えでいらっしゃいますが、診察力、様々な検査を組み合わせて正確な診断と最適な治療方法のご提案が出来るように日々精進しております。近隣の先生方と一体となって地域の医療を支えて参りますので、今後ともどうぞ宜しくお願い致します。もちろん副院長として病院全体、脳神経内科に限らない疾患の受け入れ、連携にも尽力して参ります。

アルツハイマー病新薬・レカネマブ

さて、私の副院長就任と時を同じくしてレカネマブ(販売名:レケンビ® )という新しい認知症の薬が製造販売承認されたというニュースが大きく取り上げられたことを覚えておられるでしょうか。今回はそれについて解説させて頂きます。
 アルツハイマー病の患者さんの脳の中にはアミロイド・ベータというものが蓄積しています。それを取り除く事の出来る薬剤が抗アミロイド・ベータ薬であるレカネマブなのです。アミロイド・ベータは神経細胞が活動するときに作られるゴミのようなものです。正常な脳ではせっせとゴミ処理できるので溜まることはないのですが、アルツハイマー病の脳ではゴミ処理ができずに溜まっていきます。その状態が10 年、20 年続くと神経細胞にダメージが蓄積して働きが悪くなったり神経細胞自体が死んでしまったりしてアルツハイマー病の症状が出るのです。この度発売されるレカネマブという薬はその溜まったアミロイド・ベータを取り除く目的で作られ、一定の効果が認められたために販売までこぎ着けたという訳です( 図)。

rekanemabuzu

レカネマブの投与対象は?

 さて、このレカネマブは認知症なら誰にでも使えるものなのでしょうか。実はそう簡単なことではありません。認知症の原因は様々で、この薬はアミロイド・ベータが蓄積するアルツハイマー病でしか効果が期待できません。このために投与前にアミロイド・ベータが蓄積しているかを検査で確認する必要があります。また、この薬の効果はそもそも認知症というよりその前段階の患者さんの方が効果が高い事が知られています。そのため、投与にあたっては認知機能の低下がまだ『軽い』事が前提になります。

レカネマブを用いた治療の注意点

 このレカネマブは、点滴で投与する薬ですが、2 週間に一度1 時間以上かけて点滴する必要があり、通院のご負担の事も考えて頂く必要があります。
 大きな問題として効果の実感が得られないという点があります。この薬はアルツハイマー病の進行を『ゆっくり』にはしてくれますが、『止めてはくれません』ので、効果を大きく実感する事も難しいかもしれません。さらに副作用として脳がむくんだり、脳出血を引き起こしたりすることが知られているため、それらのリスクが高そうな患者さんには投与はお勧めできない場合もあります。
 ただし、今まで有効な手段が少なかったアルツハイマー病にようやく『戦える』様になったことは大きな科学の進歩である事は間違いありません。当センターでのレカネマブを用いた治療について、受診から投与までの流れは以下ホームページをご覧ください。

アルツハイマー病による軽度認知障害または認知症の新薬レカネマブ(レケンビ®)について

緩和ケア内科のご紹介

緩和ケア内科 部長(診療科長)
中島豪(なかじま ごう)

 昨年11 月より緩和ケア内科に赴任いたしました中島豪と申します。前職ではがん患者さんの抗がん剤治療と症状緩和治療、緩和ケアを担当してきました。がんと診断された方やそのご家族はどなたでも緩和ケア内科を受診していただけますので、からだの症状で困ったときやこころが辛くなったとき、ぜひお気軽にご相談ください。

緩和ケアとは

 「緩和ケア」と聞いて、どのようなことをイメージされますか?ひと昔前までは末期のがん患者さんが受ける治療、というイメージが根強くありました。もちろんそのような方への対応も行うのですが、いまは「早期からの緩和ケア」が主流となってきています。緩和ケアは「がんと診断されたその日から」「がんの治療中でも」受けられます。
 がんは早期であっても痛みや吐き気、息苦しさなど様々な症状がみられる場合があります。気になる症状をしっかりと抑えて緩和しながら、しっかりがん治療に向き合うことが大切です。
 また、がんと診断されたら大きなショックを受け、仕事のこと、家族や友人のこと、お金のことなど、急に社会とのつながりや関係性が変わってしまい、様々な問題が浮き上がってきます。心のケアを行いながら、看護師や薬剤師、心理士、ソーシャルワーカーなど、様々な職種と連携して問題に対処しています。