JAHEAD(全国高齢者の健康と生活に関する長期縦断研究)

メンバー

プロジェクトリーダー

研究部長 小林 江里香 (社会参加とヘルシーエイジング研究チーム)

研究員

村山 洋史(社会参加とヘルシーエイジング研究チーム)
村山 陽(社会参加とヘルシーエイジング研究チーム)
清野 諭(社会参加とヘルシーエイジング研究チーム)
深谷 太郎(健康長寿イノベーションセンター)

非常勤研究員

竹内 真純

他機関の研究者

Jersey Liang(ミシガン大学/長庚大学)
秋山 弘子(東京大学名誉教授)
菅原 育子(西武文理大学サービス経営学部)
杉澤 秀博(桜美林大学大学院老年学研究科)
杉原 陽子(東京都立大学都市環境学部)
津田 好美(早稲田大学文学学術院)
山田 篤裕(慶應義塾大学経済学部)
原田 謙(実践女子大学人間社会学部)
岡本 翔平(世界保健機関(WHO) UHC2030)
中川 威(国立長寿医療研究センター 研究所)
新開 省二(女子栄養大学栄養学部)

キーワード

全国高齢者代表標本、長期縦断研究、加齢変化、健康、フレイル、社会関係、社会経済的格差、出生コホート、後期高齢者、データアーカイブ

主な研究

1. 高齢期の健康・生活の縦断的変化と関連要因の解明
2. 高齢者の時代的・世代的変化
3. 地域差に関する研究
4. データの公開と利用促進

研究紹介

 本プロジェクト(JAHEAD:Japanese Aging and Health Dynamics)は、1980年代後半に東京都老人総合研究所(当時の社会学部)とミシガン大学の共同研究としてスタートし、東京大学や他機関の研究者も多数参加しながら継続しているもので、30年以上の歴史をもつまさに「長期の」縦断研究です。プロジェクトの歴史やこれまでの研究成果の詳細につきましては、調査のホームページをご覧下さい。

 第1回調査は、全国から無作為抽出された60歳以上の男女を対象に1987年に実施し、その後、新しい対象者を加えながら2006年の第7回調査まで3~4年ごとに追跡調査を行い、2012年に第8回調査を実施しました。第8回調査では、以前からの対象者に加えて、団塊の世代を含む60~92歳の新しい対象者の追跡も開始し、2017年に第9回調査を実施しました。2021年には、さらに60~92歳の新規対象者を追加して第10回調査を実施しました。

 JAHEADの調査データは、①全国高齢者の代表標本、②面接調査により高齢期の健康や生活を様々な側面から把握(心身の健康、家族、友人・近隣関係、就労・社会参加、健康行動、医療・介護サービスの利用、経済状態など)、③長期間にわたる多数の観察時点をもつ縦断データ、④後期高齢者に焦点を当てた分析が可能な標本設計(1999年に70歳以上の標本を追加)、⑤出生コホート(同期間に生まれた集団=世代)による比較が可能、という特徴をもっています。②に関しては、第8回、第9回調査では、通常の面接調査に加えて、体力・身体測定(握力、歩行速度、身長、体重)による客観的な測定値のデータも得ており、高齢者の健康をより多面的に把握できるようになりました。

 本プロジェクトは3つの目標を掲げています。第1に、本データの特徴を生かした分析を行い、日本の高齢者の健康・生活の実態や課題を国内外に発信すること、第2に、新しい高齢者コホートを追加しながら追跡調査を継続するとともに、次世代の研究者を含む多くの研究者がデータを利用できるように、データのアーカイブ化と公開に取り組むこと、第3に、高齢者研究のデータの質の向上に役立つ研究を行い、老年学研究に貢献することです。

 これらの目標を達成するため、具体的には以下で紹介する4つの課題に取り組んでいます。第3の目標については、第8回、第9回調査の経験に基づき作成した、「訪問調査における「体力・身体測定」-資料集と測定の手引き-, 2021年3月)を調査のホームページで公開しました。

1. 高齢期の健康・生活の縦断的変化と関連要因の解明

 長寿化の進行により「高齢期」は長くなっており、高齢者が抱える課題も年齢により大きく異なります。高齢者の身体的・心理的・社会的機能が加齢とともにどのように変化するのかの解明は、生涯発達的観点からの学術的重要性はもちろんのこと、医療・介護制度を始めとする公的支援の必要量を推計する上でも不可欠です。
 本プロジェクトでは、高齢期の平均的な変化のみならず、多様な変化パターンについても検討し、変化の違いを生じさせる個人差の問題、特に社会経済的状況による格差について明らかにしてきました。さらに、心身の健康のリスク要因が、性別や年齢によってどのように異なるかや、2、3で述べるように、時代的・世代的な違いや地域差に着目した分析も進めています。

2. 高齢者の時代的・世代的変化

 高齢者における就労・家族などの状況や高齢者の意識は、時代とともに大きく変化しており、初期の調査で得られた知見が最近の高齢者にどの程度適用できるかは不確かな点もあります。そこで、加齢に伴う心理・社会・身体的な変化や、健康・ウェルビーイング(生活満足度など)の予測要因が、調査年や出生コホート(世代)によりどのように異なるかに焦点を当てた研究を一層推進していきます。このような分析を可能にするため、2012年(第8回)と2021年(第10回)には60歳以上の新規対象者を追加しました。
 時代的影響としては、新型コロナウイルス感染症の世界的大流行(パンデミック)が、高齢者の健康や生活にどのような影響を与えたのかも重要な課題です。第10回調査はパンデミック下での実施となりましたが、今後、追跡調査を継続する中で、パンデミックを経験したコホートには、これまでのコホートとは異なる傾向が見られるかなど、様々な側面からこの歴史的出来事の影響を検証していく必要があります。

3. 地域差に関する研究

 JAHEADの対象者は全国から無作為抽出された代表標本のため、「日本の高齢者」の特徴を明らかにするのに適したデータですが、一方で、日本国内にも大きな地域的多様性があるのも事実です。高齢者の健康や生活実態に地域間の多様性があるはもちろんのこと、健康・ウェルビーイングの関連要因にも地域差があるかもしれません。個人特性に加えて、対象者が居住する自治体の地域特性を考慮に入れた分析(マルチレベル分析)を行うことにより、地域特性が社会活動や健康・ウェルビーイングにどのような影響を与えるか、また個人特性の影響が地域特性により異なるかなども明らかにしていきます。
 重要な地域特性の1つは都市度です。例えば、区市町村の人口集中地区(DID)居住者の割合を都市度とした研究では、同居者がいる人に比べて独居者の抑うつが高い傾向は、都市度が低い地域でより強いことがわかりました(Kobayashi et al., in press).都市度の異なる地域との比較により、大都市の特徴が一層明確になることが期待されます。

4. データの公開と利用促進

 JAHEADの対象者は全国から無作為抽出された代表標本のため、「日本の高齢者」の特徴を明らかにするのに適したデータですが、一方で、日本国内にも大きな地域的多様性があるのも事実です。高齢者の健康や生活実態に地域間の多様性があるはもちろんのこと、健康・ウェルビーイングの関連要因にも地域差があるかもしれません。個人特性に加えて、対象者が居住する自治体の地域特性を考慮に入れた分析(マルチレベル分析)を行うことにより、地域特性が社会活動や健康・ウェルビーイングにどのような影響を与えるか、また個人特性の影響が地域特性により異なるかなども明らかにしていきます。
 重要な地域特性の1つは都市度です。例えば、区市町村の人口集中地区(DID)居住者の割合を都市度とした研究では、同居者がいる人に比べて独居者の抑うつが高い傾向は、都市度が低い地域でより強いことがわかりました(Kobayashi et al., in press).都市度の異なる地域との比較により、大都市の特徴が一層明確になることが期待されます。

主要論文(過去5年間)

  1. Sugisawa H, Sugihara Y, Kobayashi E, Fukaya T, Liang J. Trends in informal and formal home help use among older adults with disabilities in Japan: From 1999 to 2017. International Journal of Social Welfare, in press (Online first: 29 March 2023) https://doi.org/10.1111/ijsw.12596
  2. Kobayashi E, Harada K, Okamoto S, Liang J. Living alone and depressive symptoms among older Japanese: Do urbanization and time period matter? The Journals of Gerontology, Series B: Psychological Sciences and Social Sciences, in press (Online first: 22 December 2022) https://doi.org/10.1093/geronb/gbac195
  3. Kobayashi E, Sugawara I, Fukaya T, Okamoto S, Liang J. Retirement and social activities in Japan: Does age moderate the association? Research on Aging, 44(2), 144-155, 2022. https://doi.org/10.1177/01640275211005185
  4. 小林江里香.高齢者の主観的ウェルビーイングにおける非親族ネットワークの重要性-年齢差の検討. 生きがい研究, 28, 16-31, 2022.
  5. Chiu C-J, Chen Y-A, Kobayashi E, Murayama H, Okamoto S, Liang J, Jou Y-H, Chang C-M. Age trajectories of disability development after 65: A comparison between Japan and Taiwan. Archives of Gerontology and Geriatrics, 96, 10449, September-October 2021.https://doi.org/10.1016/j.archger.2021.104449
  6. Murayama H, Liang J, Shaw BA, Botoseneanu A, Kobayashi E, Fukaya T, Shinkai S. Short-, medium-, and long-term weight changes and all-cause mortality in old age: Findings from the National Survey of the Japanese Elderly. The Journals of Gerontology, Series A: Biological Sciences and Medical Sciences, 76(11), 2039-2046, 2021.  https://doi.org/10.1093/gerona/glab052
  7. Okamoto S, Kobayashi E, Murayama H, Liang J, Fukaya T, Shinkai S. Decomposition of gender differences in cognitive functioning: National Survey of the Japanese Elderly. BMC Geriatrics, 21 (38), 2021. https://doi.org/10.1186/s12877-020-01990-1 
  8. Okamoto S, Kobayashi E. Social isolation and cognitive functioning: A quasi-experimental approach. The Journals of Gerontology, Series B: Psychological Sciences and Social Sciences, 76(7), 1441-1451, 2021. https://doi.org/10.1093/geronb/gbaa226
  9. 小林江里香. 全国高齢者の健康と生活に関する長期縦断研究(JAHEAD). 老年内科, 4(4), 351-356, 2021.
  10. Murayama H, Kobayashi E, Okamoto S, Fukaya T, Ishizaki T, Liang J, Shinkai S. National prevalence of frailty in the older Japanese population: Findings from a nationally representative survey. Archives of Gerontology & Geriatrics, 91, 104220, 2020. https://doi.org/10.1016/j.archger.2020.104220
  11. Murayama H, Liang J, Shaw BA, Botoseneanu A, Kobayashi E, Fukaya T, Shinkai S. Socioeconomic differences in trajectories of functional capacity among older Japanese: A 25-year longitudinal study. Journal of the American Medical Directors Association, 21(6), 734-739.e1, 2020. https://doi.org/10.1016/j.jamda.2020.02.012
  12. Murayama H, Liang J, Shaw BA, Botoseneanu A, Kobayashi E, Fukaya T, Shinkai S. Age and gender differences in the association between body mass index and all-cause mortality among older Japanese. Ethnicity & Health, 25(6), 874-887, 2020. https://doi.org/10.1080/13557858.2018.1469737
  13. 深谷太郎,小林江里香. 高齢者のICT利用状況の変化要因について-縦断調査データを用いて. 厚生の指標, 67(7), 2-8, 2020.
  14. Ishizaki T, Kobayashi E, Fukaya T, Takahashi Y, Shinkai S, Liang J. Association of physical performance and self-rated health with multimorbidity among older adults: Results from a nationwide survey in Japan. Archives of Gerontology and Geriatrics, 84, 103904, September-October 2019. https://doi.org/10.1016/j.archger.2019.103904
  15. Okamoto S. Socioeconomic factors and the risk of cognitive decline among the elderly population in Japan. International Journal of Geriatric Psychiatry, 34(2), 265-271, 2019. https://doi.org/10.1002/gps.5015 
  16. Sugisawa H, Sugihara Y, Kobayashi E, Fukaya T, Liang J. The Influence of life course financial strains on the later-life health of the Japanese as assessed by four models based on different health indicators. Ageing & Society, 39(12), 2631-2652, 2019. https://doi.org/10.1017/S0144686X18000673
  17. Kobayashi E, Sugihara Y, Fukaya T, Liang J. Volunteering among Japanese older adults: How are hours of paid work and unpaid work for family associated with volunteer participation? Ageing & Society, 39(11), 2420-2442, 2019. https://doi.org/10.1017/S0144686X18000545