フレイルを平易な言葉で表すと、自立喪失(介護が必要な状態や死亡)のリスクが高まっている状態となります。そのためフレイルは、健常な状態と要介護状態の間に位置していると考えられています。フレイルの特徴は、進行する(要介護状態へと移行する)だけでなく、可逆性を有する(健常な状態に戻ることが可能である)点にあります。フレイルの該当率は使用するフレイル評価法や対象集団の年齢などによってばらつきがあることが知られており、地域在住高齢者を対象とした先行研究の結果を概括すると、おおよそ10-20%程度になります。
フレイルの予防・改善を目的とした介入プログラムの成果が、これまでに数多く報告されています。特に重要と考えられているのは、運動面、栄養面、社会面へのアプローチです。また、フレイルの認知的要素を考慮する場合には、知的活動(いわゆる脳トレや読書など)の実施も推奨されています。これらの知見は、いわゆる教室型のプログラムから得られたものです。つまり、一定の強度で運動をおこなったり、そこに特定の栄養素の摂取を追加したりすれば、フレイルの予防・改善効果が得られることを意味しています。
一方、観察研究において日常生活における行動に着目した研究は少なく、どのような日常行動が長期的にみてフレイル予防につながるのか、フレイルから非フレイルな状態への改善に寄与するのか、についての知見は不十分でした。
我々は農作業が盛んな兵庫県養父市に在住する65歳以上の高齢男女3769名を5年間追跡し、日常行動とフレイルの変化(非フレイルからフレイルへの進行およびフレイルから非フレイルへの改善)との関連性を調べました。なお、この研究では、日常行動として農作業、買い物、運動、食事、知的活動、社会参加、喫煙の7項目を取り上げました。 この研究から明らかになったことは以下の通りです。
A.非フレイル高齢者の変化 B.フレイル高齢者の変化
図1 追跡調査時の状態(初回調査時のフレイルの状態別)
先の我々の研究を含め、これまでの研究から分かってきていることは、フレイルを防ぐには多様な健康行動が求められるということです。これは、フレイルにつながる経路が複数存在することと関連しています。身体機能に着目する場合は身体的フレイル、認知機能も考慮する場合には認知的フレイル、社会的側面を捉える場合には社会的フレイルと呼ばれます。ここから分かるように、フレイルは一つの要因から構成されているわけではありません。つまり、日々の生活においても、身体を動かし、頭を使い、地域活動やサロンなどへの参加(社会参加)をすることで、フレイルになりにくくなるものと考えられます。
冒頭でも述べた通り、フレイルな状態にあっても非フレイルに戻ることは可能です。現に我々の研究でも5年という長期間でみても15%のフレイル高齢者が非フレイルへと改善しています。フレイル予防に資する日常行動と同様に、フレイルであっても多様な健康行動を実践することが必要だと考えられます。
一方で、フレイルになると健康行動を取りづらくなるのもまた事実です。例えば、フレイル高齢者は非フレイル高齢者に比べて、交通面での支障が大きい(移動手段の制限が大きい)ことが知られています。そのため、公民館や集会施設のような社会活動の拠点となる場所が自宅から遠い場合には、参加が困難になってしまいます。よって、フレイルになっても健康行動を継続できるように支援すること、そしてそのための環境整備を進めることが求められています。
年齢が上がるにつれてフレイル高齢者の割合も増えていくことが知られていますが、年を重ねるのを止めることはできません。一方、日常行動は改変可能な要因です。つまり、この記事を読んだ後すぐにでも実践できるのです。
外に出て農作業をしたり、運動をしたり、社会活動に参加したり、あるいは日々の生活の中で頭を使う機会を作ったりすることが推奨されますが、新型コロナウイルス感染症の影響で、今まで通りの健康行動を取るのが困難なケースも出てきていると思います。そのような時は、当センターの社会参加と地域保健研究チーム(ヘルシーエイジングと地域保健研究グループ)が作成しているウェブページをご活用ください。検索サイトにて「フレイル予防応援コンテンツ」と検索していただくとサイトを発見できます。