栄養・口腔ケアのちょい足し:オーラルフレイル対策でいつまでもおいしく食べよう!

自立促進と精神保健研究チーム 白部 麻樹

2024.2.1

口腔機能について

 口腔は様々な機能を持っています。呼吸器官と消化器官の入り口であり、食べること(噛むことや飲み込むこと)や味覚、発音といった生理的な機能だけではなく、コミュニケーションや口元の美しさといった心理、社会的な機能も担っています。
 その中でも、特にフレイル予防に重要な機能は、食べる機能です。食べる機能のうち、特に噛む機能(咀嚼機能)は、日々の食事と関連があることが分かっています。咀嚼機能が高いグループと低いグループで栄養素や食品群の摂取量を比較したところ、咀嚼機能が低いグループでは、特に、たんぱく質やビタミン類、また、いも類や野菜、海藻類、豆類、肉類、魚介類などの摂取量が、咀嚼機能が高いグループと比較して低いことが分かりました(1)。咀嚼機能が低下すると、噛み応えのある食品を避けたり、偏った食生活を送る傾向にあるといえます。
 また、口腔機能は食事だけではなく、認知機能とも関連があります。今までの研究では、噛む力(咀嚼能力)と脳血流などとの関連は明らかとされています。そこでわれわれは、口腔機能の向上を目的としたトレーニングと歯磨きの際に鏡を見ながら磨くことを8 カ月間実施してもらう介入研究を行いました(図1)。その結果、口腔機能の向上や口腔の衛生状態の改善だけではなく、注意機能(目や耳などから得られる膨大な量の感覚情報を取捨選択して、脳が情報を処理する機能で、大切なことに意識を集中する働き)が向上することを明らかにしました(2)
 口腔機能は生活するうえで必要な"食べること"を支えているだけではなく、全身の様々な機能と関連がある重要な機能の一つといえます。

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図1

オーラルフレイルとは

 口腔機能の重要性に着目し、日本発で提唱された概念として「オーラルフレイル」が注目されています(3)。オーラルフレイルは、これまで、老化や廃用(過度に安静にすることや、活動性が低下することで、筋力低下や心肺機能の低下など身体に生じた様々な状態)として解釈されていた口腔機能低下の過程を可視化したモデルです。多くの場合、加齢とともに低下する口腔機能を「齢のせい」とあきらめ、自ら固いものを避け、結果的に食の多様性を狭めることに繋がります。つまり、口腔に関連した"ささいな衰え"から始まる現象に気づくことなく放置されることにより、機能低下の悪循環に陥り、さらに口腔機能低下だけではなく心身機能の低下にまで至る過程に警鐘を鳴らす概念といえます。
 地域在住高齢者を対象とした研究結果から、オーラルフレイルに該当したグループは、該当しなかったグループと比較して、2 年間の身体的なフレイル(心身の活力が低下して要介護状態となるリスクが高い状態)の発生が2.4 倍、サルコペニアの発生が2.1 倍、また45 ヶ月間の要介護認定の発生が2.4 倍、死亡の発生が2.1 倍と報告されています(3)。このように、オーラルフレイルと心身機能の低下には関連があることが明らかとなっており、 "ささいな衰え"を放置せずに、より早期からオーラルフレイル対策を行うことが重要です(4)
 オーラルフレイルの評価にはいくつかの方法がありますが、簡単に8 個の質問からリスク判定をすることができます(図2)(5)。それぞれ、はい、または、いいえで回答し、該当の選択肢に記載されている点数を足して、合計点から判定をチェックしてみましょう。

図2
図2

オーラルフレイル対策

 オーラルフレイル対策の方法として、大きく2 つに分けてポイントを説明します。
(1)毎日の歯磨きと定期的な歯科受診
 毎日の歯磨きは、正しいブラッシングで、むし歯(う蝕)や歯周病などを予防し、健康な歯を維持することに繋がります。むし歯や歯周病の原因となるプラークは、食べ物の残りかカスが歯の表面に付着して細菌が繁殖したもので、白くねばねばしているのが特徴です。したがって、うがいだけで取り除くことはできません。歯ブラシを優しい力で細かく動かして、口の中を清潔に保ちましょう。また、歯ブラシだけでは、歯と歯の間の汚れを全て取り除くことはできません。歯間ブラシや糸ようじ、デンタルフロスなどを併用して、歯と歯の間の汚れも磨き残しのないように注意しましょう。また、歯磨きの後や、歯間ブラシなどを使った後は、しっかりとブクブクうがいをして、口の中に汚れを残さないようにしましょう(図3)。うがいの際には、唇をしっかりと閉じて、口全体に水が行き渡るように口を動かしましょう。さらに、定期的に歯科医院で健診を受けることで、毎日の歯磨きが正しく行えているか、むし歯や歯周病のリスクがないかチェックしてもらいましょう。

図3
図3

(2)口腔機能の維持・向上を目的としたトレーニング
 特に食べることや、会話の際に重要な役割を果たしている、唇や舌、頬などを動かすトレーニングをいくつかご紹介します。
 ①肩と首のストレッチ
 食べる前の準備運動として、首回りの筋肉の緊張をほぐしたり、鍛えたりするのが目的です。息を吸いながら肩をあげて、息を吐きながら肩を下げます。これらの動きをゆっくりと3 回繰り返しましょう(図4)。
 ゆっくりと右へ首を倒して、左側の首筋を伸ばします(図5)。ゆっくりと元の位置に戻したら、今度は反対に左へ首を倒して、右側の首筋を伸ばします。これらの動きをゆっくりと3 回繰り返しましょう。

図4    
図4

    図5
図5

②頬のトレーニング
口周りや頬の筋力アップを目的とした体操です。頬をふくらませます(図6)。舌を上あごに押し付けて、唇をしっかりと閉めて、口から息が漏れないようにしましょう。次に、息を吸うように口をすぼめます。これらの動きを3 回繰り返しましょう。

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図6

③舌のトレーニング
 舌の筋力アップを目的とした体操です。口を大きく開けて、舌をできるだけ前に出します(図7)。無理のない範囲で、しっかりと力を込めて舌を動かしましょう。続いて、舌を上に向けて上唇を舌先で触ります。最後に、左右の口角を舌先で触ります。これらの動きを3 回繰り返しましょう。

図7
図7

④唾液腺マッサージ
 口の中にある3 種類の大きな唾液腺(図8)をマッサージで刺激をして、唾液の分泌を促すことを目的とした体操です。唾液は口の中を潤し、食べ物を飲み込むための助けとなる多くの機能を有しています。
 各箇所、1 回につき5 秒程度を目安にやさしくマッサージしましょう(図9)。3 回ずつ繰り返します。まずは、耳下腺のマッサージです。耳の少し前くらいの位置を指(人差し指~薬指全体)でやさしく、奥から手前に向かって円を描くようにマッサージします。続いて、顎下腺のマッサージです。下の顎の骨の内側(首に近いところ)を指(人差し指~薬指の指先)でやさしく、耳の方から顎先に向かって、軽く押してマッサージします。最後に、舌下腺のマッサージです。顎先の少し内側(舌の付け根のあたり)を親指でやさしく、舌を押し上げるようにマッサージします。

図8
図8

図9
図9

さいごに

 バランスの良い食生活をしている方は、偏った食生活をしている方と比べて、フレイルに該当する割合が低いことが分かっています。つまり、フレイル予防には、なるべく多くの種類の食品を選び、バランスの良い食生活を送ることが重要です。
 固いものが食べにくくなったな、お茶などでむせることが増えたな、おしゃべりをしていて聞き返されることが増えたな、などの口に関する"ささいな衰え"を放置せずに、いつまでもおいしく、楽しく、様々な種類の食品を食べるために、より早期からオーラルフレイル対策に取り組みましょう。

参考文献

  1. Motokawa, K.; Mikami, Y.; Shirobe, M.; Edahiro, A.; Ohara, Y.; Iwasaki, M.; Watanabe, Y.; Kawai, H.; Kera, T.; Obuchi, S.; Fujiwara, Y.; Ihara, K.; Hirano, H. Relationship between Chewing Ability and Nutritional Status in Japanese Older Adults: A Cross-Sectional Study. Int. J. Environ. Res. Public Health 2021, 18, 1216.
  2. Matsubara C, Shirobe M, Furuya J, Watanabe Y, Motokawa K, Edahiro A, Ohara Y, Awata S, Kim H, Fujiwara Y, Obuchi S, Hirano H, Minakuchi S. Effect of oral health intervention on cognitive decline in community-dwelling older adults: A randomized controlled trial. Arch Gerontol Geriatr. 2021 Jan-Feb;92:104267. doi: 10.1016/j.archger.2020.104267. Epub 2020 Sep 28. PMID: 33035763.
  3. Tanaka T, Takahashi K, Hirano H, Kikutani T, Watanabe Y, Ohara Y, Furuya H, Tetsuo T, Akishita M, Iijima K. Oral Frailty as a Risk Factor for Physical Frailty and Mortality in Community-Dwelling Elderly. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2018 Nov 10;73(12):1661-1667. doi: 10.1093/gerona/glx225. PMID: 29161342.
  4. Shirobe M, Watanabe Y, Tanaka T, Hirano H, Kikutani T, Nakajo K, Sato T, Furuya J, Minakuchi S, Iijima K. Effect of an Oral Frailty Measures Program on Community-Dwelling Elderly People: A Cluster-Randomized Controlled Trial. Gerontology. 2022;68(4):377-386. doi: 10.1159/000516968. Epub 2021 Jul 9. PMID: 34247160; PMCID: PMC9153353.
  5. Tanaka T, Hirano H, Ohara Y, Nishimoto M, Iijima K. Oral Frailty Index-8 in the risk assessment of new-onset oral frailty and functional disability among community-dwelling older adults. Arch Gerontol Geriatr. 2021 May-Jun;94:104340. doi: 10.1016/j.archger.2021.104340. Epub 2021 Jan 19. Erratum in: Arch Gerontol Geriatr. 2021 Sep-Oct;96:104466. PMID: 33529863.