地域づくりの新たな担い手「プロボノワーカー」の特性と活動促進要因の検討:現役勤労者と協働した地域づくりの可能性

社会参加とヘルシーエイジング研究チーム 野中 久美子

2023.9.25

1.はじめに:人々が安心して暮らせる地域包括ケアシステム構築の必要性

 高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される「地域包括ケアシステム」の構築が各地で進められています。地域包括ケアシステムの実現のためには、地域住民が運営する団体やグループ(以降、地域団体)による様々な助け合い活動を活性化していく必要があります。助け合い活動の例として、気軽に参加できるサロンなど通いの場があります。また、通いの場や趣味活動、買い物等への外出に付き添う外出支援もあります。そういった助け合い活動が身近な地域にあれば、公共交通機関を利用した外出が困難になった方も外出支援ボランティアの助けにより、気軽に外出して地域や人とつながりつづけられるでしょう。

2.地域団体が直面する課題と非高齢者世代との協働の必要性

 現状、地域の助け合い活動は主として高齢者ボランティアが支えています。しかし、ボランティアが高齢化により活動を離脱するのに対し、新規ボランティアが参加しないために担い手不足や活動継続困難に陥っている地域団体も少なくありません。さらに、活動のマンネリ化などによる新規参加者・利用者が減少といった課題に直面している団体もあります(1, 2。そういった課題解決の糸口の一つとして、非高齢者世代のスキルやアイディアを団体運営に活用し、活動内容の活性化や団体運営を効率化することもできるでしょう。例えば、新型コロナウィルス感染拡大時には、体操や交流活動を行う地域団体が大学生の支援を得て、オンラインを導入して活動を再開した事例もありました(3

3.地域活動に関わることによる現役勤労者のメリット

 我々は退職後に地域ネットワークとつながる必要性に着目し、現役勤労者を地域団体につなぐ研究事業に取り組み始めました。現役勤労者が退職前から地域と繋がることは、経営学者のドラッカーが提唱する「パラレルキャリア」(4の構築につながります。「パラレルキャリア」とは、本業の傍らでNPOなど非営利活動に従事し仕事や家庭とは別のコミュニティを持つことにより、退職後の第2の人生において広い視野や経験を得て精神的に豊かに過ごせるという考え方です。一般的に、退職後にいきなり地域でつながりをつくることは難しいので、40歳前後といった早い時期から「パラレルキャリア」と築く準備をすることが重要とされています(4

4.地域団体と現役勤労者の協働を促す「プロボノ」

 私たちは、現役勤労者が早期から地域と関わる一つの方法として「プロボノ」に着目し、プロボノ活動に従事する現役勤労者「プロボノワーカー」の特性と活動促進要因を検証しました。プロボノとは、ラテン語で「公共善のために」を意味するpro bono publicoの略です。職業上の知識やスキルを活かして社会や地域に貢献するボランティア活動の一形態であり、世界各地で様々な専門職がプロボノ活動に取り組んでいます。例えば、アメリカ合衆国やイギリスでは、法律の専門家が無償で法律に関するサービスを提供するプロボノ活動に取り組んでいます。本研究が着目したプロボノは、認定NPO法人サービスグラント(以降、サービスグラント)が運営する、職種や分野を問わず自身のスキルや経験を活かして地域団体の課題解決を支援をする形態のプロボノです。その活動例として、町会・自治会や地域団体が、新しい参加者・利用者を開拓するためのマーケティングリサーチ、PR動画やパンフレットの作製などがあります。プロボノが課題解決援という活動のため、プロボノワーカーが団体に関わる業務内容や期間(主として1日~6か月)が明確に限られていることが活動の特徴の一つといえるでしょう。

5.プロボノワーカーへの調査で明らかになったプロボノワーカーの特性と参加促進要因 

1)プロボノワーカーとはどのような特徴を持つ人々なのか?

 プロボノワーカーとはどのような特徴を持つ人々なのか、数あるボランティア活動の中でなぜプロボノを選だのかを検証するために、サービスグラントに登録するプロボノワーカー2,724名への質問紙調査を実施し、840名の回答を得ました(回収率は30.8%)。男女別の特性とプロボノ参加動機をMann-Whitney検定またはカイ二乗検定により検証しました。
 表1にプロボノワーカーの男女別の特性を示しました。まず、男女共に週35時間以上就労している者の割合が多くなっていました(男性=90.1%、女性=73.1%)。主な職業は多い順に、営業・顧客管理業務(31.5%)、経営企画・新規事業開発(25.4%)、マーケティング・宣伝(24.8%)、コンサルティング(21.1%)でした(表1には示していません)。すなわち、主としてホワイトカラー勤労者で構成された集団と言えるでしょう。年齢構成は、女性では20~39歳(58.7%)が最も多いのに対し、男性では40~49歳(35.8%)ついで50~59歳(29.5%)が多くなっていました。サービスグラント登録前のお住いの地域での地域活動への関わり方や関心に着目すると、半数以上が参加経験がなく(男性58.0%、女性65.8%)、4割以上が活動そのものに関心を持っていませんでした(男性42.3%、女性45%)。

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表1.男女別のプロボノワーカーの特性

 表2にプロボノへの参加動機を記しました。最も多い動機は、普段接する機会のない人との交流への期待(合計で94.4%)など普段の仕事や生活では出会えない人との交流や経験を得ることへの期待でした。次いで、自分のスキルや能力を会社外で試すといった腕試し的な動機が続きます(86.9%)。また、地域や社会の役に立ちたいといった社会貢的な動機も80%以上が選択していました(複数回答)。

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表2.プロボノ活動への参加動機

2)プロボノの促進要因

 数あるボランティア活動の中でプロボノを選んだ理由をより詳細に明らかにするために、28歳~50歳のプロボノワーカー17名(以降、調査協力者)へのインタビュー調査を実施しました(男性は11名)。プロボノに参加し始めた動機は年代により異なっていました。40歳~50歳代の調査協力者の多くが、退職後の生活を漠然と意識しプロボノに参加し始めたのに対し、20歳代~30歳代は今の生活の充実やキャリアアップを意識して参加し始めていました。具体的には、40~50歳代の調査協力者は、退職後は社会課題解決を目的としたソーシャルビジネスや地域活動に取り組みたく、興味を持てそうな活動を探すため、または地域に関わる足がかりを得るためにプロボノ参加を決めていました。一方で、20歳代~30歳代の調査協力者は、仕事以外のコミュニティづくり、仕事では経験できないことに挑戦することにより視野を広げる・スキルアップする機会としてプロボノに参加していました。
 そして、プロボノ実施後のプロボノ以外の地域活動への参加意向も世代により異なっていました。40歳~50歳代はプロボノを介して地域団体と関わる中で、営利企業と異なる非営利団体の活動スタイルや思考を理解し、地域活動に加わることへの自信を高めていました。一方で、20歳~30歳代は地域団体の活動スタイルや思考への理解を深めつつも、引き続きプロボノを介して地域団体と関わることを希望していました。
 ところで、多くの調査協力者はプロボノ以外の地域活動やボランティア活動を検索した上で、あえてプロボノを選択していました。世代に関わらず調査協力者に共通するプロボノ選好理由は、活動期間が明確に設定されていること、および特定の地域団体の課題解決型の活動であるということでした。
 まず、一般的な地域活動は特定団体のメンバーとなり継続的に活動を求められることが多いために、仕事や家庭の事情が変わって活動が難しくなったり、地域団体の価値観が自分に合わなかった場合にも「一度関わったらやめられない」といった不安があることが指摘されました。それに対して、プロボノは関わりの期間が事前に設定されているために、仕事や家庭の事情などその時の生活状況に合わせて活動できる上に、活動が自分の価値観にあわなかった場合も関わり期限が決まっているために安心して参加できることが大きな決め手となっていました。
 また、特定団体が抱える課題解決という活動は、活動目的が明確かつ達成可能であるため、やりがいや達成感を期待して活動できることが参加促進要因の一つでした。さらに、目的達成のための工程と自分に期待された業務や役割も明確なため、仕事や家庭生活と両立して取り組むための方策を考えやすいことも参加の決め手となっていました。

6.まとめ

 以上の結果を踏まえると、プロボノワーカーとは、主に仕事外での人との交流や経験をえること、すなわち「パラレルキャリア」の構築に高い関心を持つホワイトカラー勤労者が多いことが明らかになりました。そして、プロボノの活動形態(期間限定で地域団体の課題解決を支援する)は現役勤労者にとっては参加しやすい活動形態であることも示唆されました。この知見を踏まえると、地域団体が現役勤労者に手伝って欲しい業務を期間限定で関われるボランティア業務として切り出し、現役勤労者が「お試し的に」地域活動に参加できる機会を増やすことにより現役勤労者を地域活動に取り込みやすくなるかもしれません。特に、退職後の生活を意識し始める40歳代以降は、プロボノ活動を繰り返す中で地域活動参加の自信を高めていたことを踏まえると、プロボノ形式の活動は新たな担い手発掘の有効な手段といえるでしょう。

参考文献

1) 中村 久美. 地域コミュニティとしての「ふれあい・いきいきサロン」の持続性と包括性に関する研究. 日本家政学会誌 2019;70(7):403-415.
2) 米澤 美保子. ボランティア活動の継続要因. 関西福祉科学大学紀要 2010;14:31-41.
3) 渡邉 大輔.コロナ禍における高齢者の生活再編と社会関係.老年社会科学 2021;42(4):346-2021.
4) Drucker PF. Managing Oneself. Boston, Massachusetts. Harvard Business Review Press, 2008.