介護職員が看取りをすることに関する調査研究~入所者に「死にたい」「死ぬのが怖い」と言われたら~

自立促進と精神保健研究チーム 宇良 千秋

1.いまや施設では看取りがおこなわれているが研究は少ない

 超高齢社会になり、高齢者が多くなるほど介護施設の職員の負担は大きくなります。2025年には介護職員が約38万人不足すると推定されています(文献1)。介護職員の身体的・精神的負担を軽減し離職を減らすことは、このような需給格差を解消することにつながるだけでなく、介護の質の向上にも寄与します。実際、我々が特別養護老人ホームの職員を対象に実施した研究では、介護職員の64.6%が精神的健康が良くない状態にありました。同時に、良好な精神的健康には看取りケアに対する積極的な態度や良好な職場環境、人への信頼感が関連していることも示されました(文献2)。我々は、介護職員の看取りケアへの積極的態度に注目しました。日本では在宅よりも施設で亡くなる高齢者が増えており、施設での看取りのニーズが高まっています。しかし、死期が近い高齢者をケアする介護職員の質的研究によると、介護職員は看取りケアに十分慣れておらず、葛藤を経験しています(文献3)。一方で、国内の研究では、介護職員が看取りケアに関わることへの意思やその理由、看取りケアへの積極的態度に関連する要因についてはほとんど明らかになっていませんでした。

2.介護職員の看取りケアへの態度と関連要因

 そこで、我々の研究チームでは、神奈川県X地区の特別養護老人ホーム8施設の常勤介護職員245名を対象に郵送調査を行いました(文献4)。質問項目は、心理学、精神医学、宗教学、ソーシャルワークを専門とする学際的研究グループで協議し、先行研究を参考にしながら作成しました。看取りケアに対する意思は、"看取りケアに積極的に関わりたいと思いますか?"という設問で評価すると同時に、その回答理由も選択してもらいました。また、過去1年間に入所者から「死にたい」、あるいは「死にたくない、死ぬのが怖い」と言われたことがあるかどうかについても質問しました。
 分析可能なデータは187件(76.3%)でした。分析の結果、介護職員の76.4%が看取りケアに積極的な態度をもち、23.6%が消極的な態度をもっていました。看取りケアへの積極的な態度の理由(図1)と消極的な態度の理由(図2)は次のとおりです。看取りケアに積極的に関わりたいと思う理由は、多い順に「自分を成長させてくれるから(63.6%)」、「生死に関わることは尊い営みであるから(60.1%)」、「入所者の人生と深く関わることができるから(44.1%)」でした。一方、看取り介護に積極的に関わりたいと思わない理由は、「もっと何かできたのではないかと後悔するから(54.8%)」、「うまく看取り介護ができるか自信がないから(47.6%)」、「人が亡くなるところを見たくないから(38.1%)」、「看取り介護にむなしさを感じるから(26.2%)」でした。これらは、看取りケアのスキルに対する自信のなさや後悔するかもしれないという予知、虚無感を表しています。このような看取りケアに関わる障害を克服するためには、介護職員への教育が重要であろうと思われます。

図1.png図1.看取りケアに積極的に関わりたいと思う理由

図2.png
図2.看取りケアに積極的に関わりたいと思わない理由

 
 また、過去1年間に入所者から「死にたい」と言われたことがある人は81.2%、入所者から「死にたくない、死ぬのが怖い」と言われたことがある人は21.5%でした。さらに、二項ロジスティック回帰分析という統計学的手法を用いて看取りケアに対する積極的態度の関連要因を検討したところ、月当たりの夜勤の回数が少ないこと、「死にたくない」という入所者に接する機会が多いこと、職場に仕事の悩みを相談できる人がいることが関連していました。これは、入所者が「死にたくない(=生きたい)」と言うのを聞いて、介護職員が介護する側とされる側の共通点(=どちらも死を免れない存在である)を理解し、より思いやりを持ち、ケアの意味を考え、看取りケアに前向きになったのではないか、と解釈できるかもしれません。この仮説は、今後の詳細な研究で明らかにしたいと思います。  

文献

1. 厚生労働省ホームページ.2025年に向けた介護人材にかかる需給推計(確定値)について.https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000088998.html

2. Ura C, Okamura T, Takase A, Shimmei M, Ogawa Y. Mental well-being of staff in long-term care facilities at risk. Geriatrics & Gerontology International. First published: 10 August 2021. https://doi.org/10.1111/ggi.14260

3. Okamura T, Ogawa Y, Takase A, Shimmei M, Toishiba S, Ura C. Conflicts in the end-of-life care: Interviews with care staff by Buddhist priests and researchers. Nihon Ronen Igakkai Zasshi. 2021; 58(1): 126-133. DOI: 10.3143/geriatrics.58.126.

4. Ura C, Okamura T, Takase A, Shimmei M, Ogawa Y. We have fear of death in common: factors associated with positive attitudes toward end-of-life care among care staff in long-term care facilities. Geriatrics & Gerontology International. 2022 Jan;22(1):87-89. doi: 10.1111/ggi.14323. Epub 2021 Dec 2.https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1111/ggi.14323