高齢期の加齢変化と個人差:会場調査と訪問調査から探る

自立促進と精神保健研究チーム 佐久間 尚子

2023.1.27

はじめに

 高齢期になると、これまでの体力や知力、気力が弱まり、老いを感じることが増えてきます。一方、往年の活力を維持し、活躍し続ける人もいます。高齢期は個人差が大きい時期と言われます。人生はもとより多様ですが、高齢期は病や事故、認知症や骨折、死別など、生活に影響する出来事が増え、人生の終焉に至る経過にはさらに個人差が生じる可能性があります。この個人差について、疫学的視点から検討した研究をご紹介します。2016年に実施した「高島平こころとからだの健康調査」(文献1)の中から、認知機能と生活機能を中心に検討した結果です(文献2)。

人口に基づく住民調査と参加率

 調査法は、人口に基づく住民調査法(ポピュレーション・アプローチ)を用いました。現代は小家族の時代です。単身世帯や高齢者のみの世帯が増え、孤立の高まる都市社会に暮らす高齢者の生活実態を知る上で、多数の方(理想的には全員)に調査に参加してもらうポピュレーション・アプローチが有効です。今回は、板橋区のご協力のもと、2016年7月に高島平対象地区に在住する70歳以上の方全員(7614名)に調査をご案内しました。
 表1はその結果です。一次調査(郵送法:自記式アンケート調査)では回答者が5430名で参加率は71%でした。これらの方々(すなわち調査に参加同意いただいた)に、2次調査(面接法:対面による問診や実測、検査など)をご案内し、会場調査には1352名(参加率は全体の18%)がご参加くださいました。また、会場調査には参加せず訪問調査にご参加くださった方が668名(参加率は全体の9%)でした。 

表1.対象者の内訳と参加率
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高齢期の個人差:要介護認定情報より

 これらの方々の要介護認定を受けていない方の割合(未認定率)を表2に示します。全体では83%で、一次調査の回答者は86%、非回答者は73%、2次調査の会場参加者は93%、訪問参加者は77%でした。会場調査の参加者は、要介護認定を受けていない方が多く、健康度が高いことがうかがわれます。

表2.要介護認定を受けていない人の割合
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高齢期の個人差:会場調査と訪問調査の比較

 会場調査と訪問調査の共通の調査項目から、年齢や教育年数、主観的健康や外出頻度など1次調査のアンケート項目と、2次調査の病歴、血圧、認知機能、生活機能などの項目について比較しました。その結果、会場参加群と訪問参加群では異なる点が種々見られました。統計学的分析(ロジスティック回帰分析)を用いて、両群を分ける特徴項目を調べたところ、抽出された主な項目は表3の通りでした。訪問群は、「手術」と「悪性新生物」の既往歴が高く、日常の生活障害や認知機能障害を評価する「地域包括ケアシステムにおける認知症アセスメントシート(DASC-21)」(文献3)の4項目(「今日の日付」、「服薬管理」、「バスや電車による一人の外出」、「室内移動」)で「何らかの支障がある」と回答した方が多いという結果でした。表3のオッズ比は、その項目に該当すると訪問群の可能性が高くなることを示しています。外出や室内移動の支障があると訪問群の可能性が、2.9倍、10.5倍と高くなる一方、今日の日付や服薬管理など認知機能に関連する項目でも1.6倍となりました。次に、認知機能検査の結果を見てみます。

表3.会場調査と訪問調査の参加者を分ける主な調査項目(出現率とオッズ比)
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(注)DASC-21の項目名は簡略表示しています。実際の質問項目は、文献3をご参照ください。

認知機能の加齢変化と個人差

 2次調査において高齢者に広く用いられている認知機能検査を実施しました。この検査で基準点未満になると認知機能の低下が疑われます。図1は、その基準点未満だった人の出現率を年齢階級別に会場群と訪問群別に示したものです。会場群も訪問群も年齢階級が上がるほど基準点未満の出現率が上昇し、認知機能の加齢変化が認められます。一方、訪問群はどの年齢階級でも会場群より基準点未満の出現率が高いという結果でした。今回の調査において、調査全体の基準点未満の出現率は,会場群と訪問群を合わせて16.6%でした。この値は2013年に町田地区で調査全体を訪問調査で実施した(文献4)際の70歳以上の出現率13.3%に近いものでした。

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 図1. 会場調査と訪問調査における認知機能検査結果の年齢階級別の比較

 今回は会場調査と訪問調査を比較する視点から,高齢者の健康面の個人差を検討しました。会場調査の参加者にも訪問調査の参加者にも個人差はあります。表3や図1において、該当する人と該当しない人の双方が両群にいらっしゃいました。しかし全体的に見ると、訪問調査の参加者は,会場調査の参加者に比べて心身の健康度が低く、生活支援の必要な方が多くいらっしゃいました。さらに今回の調査に参加されなかった方もいらっしゃいます。地域には様々な高齢者が暮らしており、誰もが安心して生涯を暮らせる社会、必要な支援が届く社会が望まれます。2020年に始まった新型コロナウィルスは、人々の対面交流を遠ざけ、私たちの生活に様々な影響を及ぼしています。声の届きにくい時代にあって社会的に孤立しやすい高齢者の支援がますます必要です。その支援の取り組みを試みています。こちらもどうぞご覧ください(研究室のホームページ: https://www.tmghig.jp/research/team/jiritsusokushin/ninchisho-seishinhoken/)。

【参考文献】

  1. 「認知症とともに暮らせる社会に向けた地域ケアモデル事業報告書」 東京都健康長寿医療センター研究所 自立促進と精神保健研究チーム 粟田主一. 2018年.
  2. Sakuma N, Inagaki H, Ogawa M, Edahiro A, Ura C, Sugiyama M, Miyamae F, Suzuki H, Watanabe Y, Shinkai S, Okamura T, Awata S. Cognitive function, daily function and physical and mental health in older adults: A comparison of venue and home-visit community surveys in Metropolitan Tokyo. Arch Gerontol Geriatr. 2022; 100:104617.
  3. 研究トピックス「認知症と共に暮らせる社会をつくる」粟田主一https://www.tmghig.jp/research/topics/201703-3382/
  4. Sakuma N, Ura C, Miyamae F, Inagaki H, Ito K, Niikawa H, Ijuin M, Okamura T, Sugiyama M, Awata S. Distribution of Mini-Mental State Examination scores among urban community-dwelling older adults in Japan. Int J Geriatr Psychiatry. 2017;32(7):718-725.