地域共生社会の可能性を探る;団地で行う本人ミーティング

自立促進と精神保健研究チーム 宮前 史子

2023.2.15

はじめに

 認知症とは、脳のなんらかの疾患が認知機能に影響を及ぼし、日常生活に支障をきたす状態です。我が国では2025年までに認知症の人は多くて730万人に達すると推計されています(内閣府, 2017)。認知症の人が住み慣れた地域で長く暮らすために、どのように支援を整え、どのような社会を作っていくのかは我々の喫緊の課題です。
 2015年に「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」が発表され、「認知症の人やその家族の視点の重視」という項目が設定されました(厚生労働省老健局高齢者支援課, 2015)。その後、2019年に政府から発表された「認知症施策推進大綱」は、「共生と予防」が車の両輪として掲げられ、「認知症は誰もがなりうるもの」であること、「住み慣れた地域の中で尊厳が守られ、自分らしく暮らし続けることができる社会を目指す」こと、「予防を含めた認知症への備えとしての取り組みを促す」ことがコンセプトとして挙げられています(認知症施策推進関係閣僚会議, 2019)。
 国は、診断後支援の一つとして、認知症の本人が主体となって活動することを目的とした認知症施策を示しています。「認知症カフェ」「本人ミーティング」「ピアサポート活動支援事業」です。これら3つの施策は少しずつ違いがあります。認知症カフェは本人だけでなく家族介護者や地域住民も含めて広く地域住民が参加するものです(河合・他, 2020)。本人ミーティングは認知症の人が集い、本人同士が主となって、自らの体験や希望、必要としていることを語り合い、自分たちのこれからのよりよい暮らし、暮らしやすい地域のあり方を一緒に語り合うもの(徳田, 2020)で、本人のエンパワメントだけでなく行政等サービス提供者との協働を志向する特徴があります。ピアサポート活動支援事業(厚生労働省老健局, 2019)は、診断後の本人同士のピア・カウンセリングを念頭に置いて始まっていますが、事業としては先に始まった二つの施策を包含する実践が行われています。いずれにせよどの施策も認知症の本人が主体的に社会参加し、情緒的・道具的・情報的サポートを授受しあい、エンパワメントをねらいとしている面で共通しています(宮前, 2021)。
 2016年から、私たちは高島平団地でコミュニティに基礎をおく参加型研究(Community-Based Participatory Research: CBPR)を行っており、「高島平スタディ」と名付けて実施しています(Okamura et al., 2021 ; Ura et al., 2021)。住民や様々な関係者との信頼関係の構築が最も重要な原動力となることを踏まえ、高島平スタディでは、地域拠点を開設し、近隣にお住いの方々が自由に過ごせる居場所を提供し、そこで専門職に気軽に相談できるようにするなど、様々な機能を持たせて活動しています(杉山・他, 2020; 枝広・他, 2021; 岡村・他, 2020)。今回紹介する本人ミーティングも私たちの活動コンテンツの一つです。本稿では、高島平団地で行っている本人ミーティングの紹介と、そこから見えてくる地域共生社会の姿について述べたいと思います。

団地で行う本人ミーティング

 高島平団地で実施している本人ミーティングは2018年から始まりました。認知症と診断された人やもの忘れが心配な人などを対象に、おおむね毎月1回、地域拠点が休業の土曜日の午後に開催しています。予約不要、会費は無料で、原則、参加の際は本名や住所なども知らせる必要はありません。認知症の有無も問われません。会は本人会と家族会に分かれて開催しています。本人会では、ひとつのテーブルを囲んで自由なテーマで話しあいます。若年性認知症の本人がファシリテーター役を担っているのが特徴です(宮前, 2020)。なお、ミーティングのスタッフは①利用者をお客様扱いせず、認知症があってもなくても、あたたかく、対等で自由で、お互いを尊重し合える態度で接する、②歓談中スタッフは関わりすぎず、自由な雰囲気で過ごすことができるようにする、③認知症や障害を持つ方への差別や偏見が垣間見られるときには、スタッフが自然な態度で合理的な配慮を示す、④必要に応じて、認知症や障害を持つ本人の思いを尋ねたり、考えたりして助け合いができるようにする、という基本的態度で参加しています(杉山・他, 2020)。

どんな人が集まり、どんなことが語られ、どんな効果があるのか?

 高島平団地での本人ミーティングは、2022年9月現在で43回開催しました。参加者の延べ人数は484名でした。参加者アンケートによると、参加者の4割は80歳代で、6割は女性でした。参加動機で最も多かったのは「ほかの人の話を聞きたかったから」で、でした。
 ミーティングの中ではどんな話題が出てくるのでしょうか?参加者の方に許可を得てミーティングの語りを記録し、内容を分類してみました。まずは、認知症や認知機能障害、老いとともに生きていく上での様々な苦労が語られていました。そして、認知症への疑問や質問、日々の生活やこれまでの人生を振り返る話題も多く出てきました。しかし、話題はネガティブなものばかりではありませんでした。例えば、症状の改善や自分の世界が広がった経験、過去に出会った認知症の人や未来に認知症になる人に思いを巡らせ、今ここで同じ時間を過ごす仲間への思いやりなど、ポジティブな話題も多くあり、多様な語りがなされていることが分かりました。
 では、本人ミーティングに参加した方々はどんな効果を実感しているのでしょうか?2名の方にお話を伺いましたので下図にてご紹介します(東京都健康長寿医療センター研究所, 2020)。

研究トピックス221012_ページ_1.jpg図1.本人ミーティング参加者の声(その1)

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図2.本人ミーティング参加者の声(その2)

認知症の本人同士が出会うと元気になる

 認知症の本人同士が集まり、批判や拒絶される心配がない場があれば、自分のことを語っても自分をありのままに受け入れてくれる安心感が得られます。認知症に限らず、様々な障害のピアサポートがありますが、ありのままの自分を他の人たちから受け入れてもらう経験の積み重ねは、ありのままの自分自身を受け入れていくことにつながっているといわれています。(田中・他, 2008)。
 また、認知症の本人同士が集まると、自分の体験や生活の中で得た知恵を語りあい、お互いの経験から学ぶことができます(Robertson, 2022)。参加動機に「人の話が聞きたかったから」という理由が多いのもそのためかもしれません。また、仲間がロールモデルとなることもあるようです。実際、図3で紹介したBさんは、自分自身の経験を他の人に語り始めています。Bさんのエピソードは、自分らしくいられる居場所を得られれば、認知症があってもなくても差別なく対等に仲間と付き合える関係を築くことが可能であるばかりでなく、他の人を支援する役割を担う可能性も感じさせてくれるのです。

地域共生社会の可能性

 ここで紹介した本人ミーティングは高島平団地の地域拠点で開催しており、地域拠点のユーザーも参加しているため、2つの場は相互作用しながら展開しています。地域拠点に居ると、「認知症になっても良くなることもあるのよね」とか、「あなた(認知症と公表している人)、元気になったわね」などといった声が聞こえてきます。この「元気になる」「良くなる」は医学的には間違っているかもしれません。しかし、本人ミーティングに参加した人たちから見ると、人と話をすることでもの忘れが気にならなくなったAさんや、生き生きと自分の体験を語るBさんの姿は希望となるのでしょう。だからでしょうか、本人ミーティングでは常連参加者が、初参加の方に、「人と話すと元気になれるから、(通常営業の)地域拠点にもいらっしゃいよ」と積極的に声をかけている場面がよく見られます(宮前, 2020)。また、認知症だけでなくその他の障害を持つ人の話を聞いたり、役所の手続きに一緒についていくなど日常生活のちょっとしたことを手伝ったりする姿も見られます。
 認知症の本人にとって本人ミーティングは、仲間と出会い話すことで自分の考えを整理し他の人に伝える機会です。一方、認知症ではない人は、その語る姿を見て、語りを聴いて「認知症と共によく生きる」ことの実感を得ながら、本人の思いを理解し思いやりを持って応援する人になっているようです。
 このように、地域共生社会は、まず認知症の本人との対話によって始まり、お互いを理解し合うことで進展していくのではないでしょうか。今後は、地域にいくつもの小さな対話の輪ができるよう実践と研究を進めて行きたいと考えています。

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図3.本人ミーティングの様子(写真)と認知症の本人が作成したポスター

【引用文献】

  1. Okamura, T., Ura, C., Kugimiya, Y., Okamura, M., Yamamura, M., Okado, H., Sugiyama, M., Inagaki, H., Miyamae, F., Edahiro, A., Taga, T., Ito, K., & Awata, S. (2021). After 5 years, half of people with cognitive impairment were no longer living in the community: A community observational survey. In International journal of geriatric psychiatry (Vol. 36, Issue 12, pp. 1970-1971). https://doi.org/10.1002/gps.5608
  2. Robertson, A. (2022). The value of peer-to-peer support as part of the post-diagnostic pathway for all people diagnosed with dementia: World Alzheimer Report 2022. Alzheimer's Desease International, 345-346.
  3. Ura, C., Okamura, T., Sugiyama, M., Miyamae, F., Yamashita, M., Nakayama, R., Edahiro, A., Taga, T., Inagaki, H., Ogawa, M., & Awata, S. (2021). Living on the edge of the community: factors associated with discontinuation of community living among people with cognitive impairment. BMC Geriatrics, 21(1), 131. https://doi.org/10.1186/s12877-021-02084-2
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  9. 杉山美香, 岡村毅, 小川まどか, 宮前史子, 枝広あや子, 宇良千秋, 稲垣宏樹, 釘宮由紀子, 岡村睦子, 森倉三男, 見城澄子, 佐久間尚子, & 粟田主一. (2020). 大都市の大規模集合住宅地に認知症支援のための地域拠点をつくる : Dementia Friendly Communities創出に向けての高島平ココからステーションの取り組み. 日本認知症ケア学会誌, 18(4), 847-854.
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