高齢糖尿病患者における食品摂取多様性とフレイルの関連

認知症未来社会創造センター 早川 美知

2024.1.5

フレイルとは?

 フレイルとは、加齢に伴い心身が衰えた状態のことです。健康な状態と要介護状態の中間であり、食事や運動などの適切な介入を行うことで、健康な状態に戻ることが可能です。フレイルの特徴として、体重減少、疲労感、歩行速度の低下、筋力の低下、活動量の低下が挙げられます。そして65歳以上の日本人の8.7%がフレイルに該当すると報告され[1]、これからさらなる高齢化を迎える日本にとって予防対策が喫緊の課題です。

糖尿病とフレイル

 令和元年度国民健康・栄養調査によると20歳以上で糖尿病が強く疑われる人の割合は、男性19.7%、女性10.8%であり、年齢階級別では、年齢が高い層でその割合が高くなります。60-69歳では男性25.3%、女性10.7%、70歳以上では男性26.4%、女性19.6%となります。血糖値を下げる唯一のホルモンはインスリンと言いますが、加齢に伴いインスリンの分泌が低下します。また体脂肪量増加や骨格筋量の低下によりインスリンの分泌量は十分であっても作用しづらくなる状態になります。こうしたことを原因として、年齢が高くなると糖尿病の割合が増えていくと考えられます。
 そして、このフレイルと糖尿病は関連しています。糖尿病の方は、そうでない方よりもフレイルが多いことが分かっています[2]。低栄養、高血糖、低血糖などはフレイルと関連しており[2, 3, 4]、糖尿病の方がフレイルとなりやすくなる要因です。また糖尿病は治療のひとつとして食事管理が行われることが一般的ですが、厳しいエネルギーコントロールなどの過度な食事の管理はフレイルを引き起こす可能性があり、高齢期における糖尿病の食事・栄養ケアはフレイル予防を加味することも重要となります。しかし、高齢糖尿病患者においてフレイル予防のための食生活については十分なエビデンスが構築されておらず、我々はこの点について地域在住高齢者を対象に調査を行いました。

食事とフレイル

 食事の評価の簡便な方法として食品摂取の多様性スコア(Dietary Variety Score:DVS)が挙げられます[5]。これは肉類、魚介類、卵類、大豆・大豆製品、牛乳、緑黄色野菜、海藻、いも類、果物類、油脂類の10食品について、「毎日食べる」を1点、それ以外を0点とし、10点満点で評価します(図1)。DVSは、高齢者の栄養疫学研究で広く使用されており、DVSが高い人は、穀物エネルギーの比率が低く、タンパク質と微量栄養素の摂取量が大幅に多いことが報告されています[6]。このDVSはフレイルの人で有意に得点が低いことが分かっています[7]。DVS には、10 品目のうち 5 品目(肉類、魚介類、卵類、大豆・大豆製品、牛乳)がタンパク質源で構成され、残りの 5 品目(緑黄色野菜、海藻、いも類、果物類、油脂類)はビタミンとミネラルの供給源で構成されています。また多くの研究では、タンパク質、ビタミン A、葉酸、ビタミン D、および総エネルギーの摂取量が少ないことが、高齢者のフレイルと関連していること分かっており[8, 9, 10, 11]、食事の多様性が低いと、エネルギー、タンパク質、およびビタミンの摂取量が少なくなり、フレイルの発生に関連すると考えられます。私たちは糖尿病も食品摂取の多様性がフレイルもどのような関連があるか調査を行いました。

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図1:食品摂取の多様性スコアの10食品

糖尿病と食事とフレイル

 65歳以上の地域在住高齢者1357名を対象とし、糖尿病の既往歴の有無と食品摂取の多様性が高い群と低い群の組み合わせとフレイルの関係をみました[12]。
 その結果フレイルの割合は糖尿病がなくDVSが高い群で3.6%、糖尿病がなくDVSが低い群で6.7%、糖尿病がありDVSが高い群で6.7%、糖尿病がありDVSが低い群で12.2%と最も高い割合となっていました(図2)。また性別や年齢、体格指数、既往歴、飲酒習慣の影響などを統計学的に調整した上で、フレイル発生のリスクを調べたところ、糖尿病でなくDVSが高い群に対する糖尿病がありDVSが低い群の発生リスクはオッズ比※が5.03となることが分かりました(図3)。これは、糖尿病で食事の多様性が低いとフレイルの発生リスクが高くなるということです。糖尿病の高齢者は、糖尿病のない高齢者と比較して栄養不良状態になる可能性が高いことも分かっているので、糖尿病の高齢者の食事管理は、厳格な食事制限から、年齢とともにフレイル予防にも着目していく必要があります。

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図2:糖尿病とDVSの組合せにおけるフレイルの割合

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図3:糖尿病とDVSの組合せにおけるフレイルのリスク(調整済み)

おわりに

 糖尿病と食品摂取多様性の両方が、高齢者のフレイルと関連しており、それらが組み合わさることによりフレイルの方が増加しました。 これらの調査結果は、糖尿病の方のフレイルを予防するためには、食事の多様性が重要である可能性があることを示唆しています。食事多様性スコアを使用した栄養介入が、現在一般的に用いられている栄養指導と同じくらい有効であるかどうかを調べるために、これからも研究を続けていきます。

※オッズ比とはある事象が起こらない確率に対するその事象が起こる確率の比であり、「ある事象の起こりやすさ」を表します。

参考文献

  1. Murayama, H.; Kobayashi, E.; Okamoto, S.; Fukaya, T.; Ishizaki, T.; Liang, J.; Shinkai, S. National prevalence of frailty in the older Japanese population: Findings from a nationally representative survey. Arch. Gerontol. Geriatr. 2020, 91, 104220.
  2. Casals, C.; Casals Sanchez, J.L.; Suarez Cadenas, E.; Aguilar-Trujillo, M.P.; Estebanez Carvajal, F.M.; Vazquez-Sanchez, M.A.Frailty in older adults with type 2 diabetes mellitus and its relation with glucemic control, lipid profile, blood pressure, balance, disability grade and nutritional status. Nutr. Hosp. 2018, 35, 820-826.
  3. Garcia-Esquinas, E.; Graciani, A.; Guallar-Castillon, P.; Lopez-Garcia, E.; Rodriguez-Manas, L.; Rodriguez-Artalejo, F. Diabetes and risk of frailty and its potential mechanisms: A prospective cohort study of older adults. J. Am. Med. Dir. Assoc. 2015, 16, 748-754.
  4. Pilotto, A.; Noale, M.; Maggi, S.; Addante, F.; Tiengo, A.; Perin, P.C.; Rengo, G.; Crepaldi, G. Hypoglycemia is independently associated with multidimensional impairment in elderly diabetic patients. Biomed. Res. Int. 2014, 2014, 906103.
  5. Kumagai, S.;Watanabe, S.; Shibata, H.; Amano, H.; Fujiwara, Y.; Shinkai, S.; Yoshida, H.; Suzuki, T.; Yukawa, H.; Yasumura, S.; et al. Effects of dietary variety on declines in high-level functional capacity in elderly people living in a community. Nihon Koshu Eisei Zasshi 2003, 50, 1117-1124.
  6. Narita, M.; Kitamura, A.; Takemi, Y.; Yokoyama, Y.; Morita, A.; Shinkai, S. Food diversity and its relationship with nutrient intakes and meal days involving staple foods, main dishes, and side dishes in community-dwelling elderly adults. Nihon Koshu Eisei Zasshi 2020, 67, 171-182.
  7. Motokawa, K.; Watanabe, Y.; Edahiro, A.; Shirobe, M.; Murakami, M.; Kera, T.; Kawai, H.; Obuchi, S.; Fujiwara, Y.; Ihara, K.; et al. Frailty severity and dietary variety in Japanese older persons: A cross-sectional study. J. Nutr. Health Aging 2018, 22, 451-456.
  8. Schoufour, J.D.; Franco, O.H.; Kiefte-de Jong, J.C.; Trajanoska, K.; Stricker, B.; Brusselle, G.; Rivadeneira, F.; Lahousse, L.; Voortman, T. The association between dietary protein intake, energy intake and physical frailty: Results from the Rotterdam Study. Br. J. Nutr. 2019, 121, 393-401.
  9. Isanejad, M.; Sirola, J.; Rikkonen, T.; Mursu, J.; Kroger, H.; Qazi, S.L.; Tuppurainen, M.; Erkkila, A.T. Higher protein intake is associated with a lower likelihood of frailty among older women, Kuopio OSTPRE-Fracture Prevention Study. Eur. J. Nutr. 2020, 59, 1181-1189.
  10. Balboa-Castillo, T.; Struijk, E.A.; Lopez-Garcia, E.; Banegas, J.R.; Rodriguez-Artalejo, F.; Guallar-Castillon, P. Low vitamin intake is associated with risk of frailty in older adults. Age Ageing 2018, 47, 872-879.
  11. Bartali, B.; Frongillo, E.A.; Bandinelli, S.; Lauretani, F.; Semba, R.D.; Fried, L.P.; Ferrucci, L. Low nutrient intake is an essential component of frailty in older persons. J. Gerontol. A Biol. Sci. Med. Sci. 2006, 61, 589-593.
  12. Hayakawa, M.; Motokawa, K.; Mikami, Y.; Yamamoto, K.; Shirobe, M.; Edahiro, A.; Iwasaki, M.; Ohara, Y.; Watanabe, Y.; Kawai, H.; Kojima, M.; Obuchi, S.; Fujiwara, Y.; Kim, H.; Ihara, K.; Inagaki, H.; Shikai, S,; Awata, S.; Araki, A.; and Hirano, H. Low dietary variety and diabetes mellitus are associated with frailty among community-dwelling older Japanese adults: a cross-sectional study. Nutrients. 2021 Feb 16;13(2):641.