現代におけるシニアの社会的活躍の必要性と実現するための方策

社会参加とヘルシーエイジング研究チーム 鈴木 宏幸

2024.5.21

現代におけるシニアの社会的活躍の必要性

 現在わが国では団塊の世代が75歳以上を迎え、平均寿命の延伸から人口の3割が65歳以上となることが見込まれています(図1)。自治体によっては既に高齢化率が50%を超えており、高齢化率の上昇傾向は日本全国で起きていることから、地域における働き盛り人口の減少と地縁・血縁の希薄化の昂進が懸念されています。このような社会状況から、地域における自助(自身による健康維持・増進)と互助(住民組織や団体による支え合い)およびシニア世代を中心とする地域活動の促進が益々期待されます。

図1 日本の人口分布と平均寿命の推移と推計

 しかしながら、令和4年版高齢社会白書によると、実際に地域活動に取り組む高齢者は趣味や運動・健康増進活動を含んだとしても51.6%であり、シニア世代の約半数は地域と関わりを持っていない、すなわち社会参加をしていない可能性が報告されています。社会貢献活動に絞ってみるとその割合は更に低くなり、高齢者支援に取り組むシニアは2.4%、子育て支援に至っては2.0%とであることが報告されています。

 年を重ねれば健康上の理由から社会参加活動や社会貢献活動を実践するのは難しくなるとの見方もあると思いますが、要支援・要介護の認定を受けている人の割合は65歳から74歳で約4.3%、75歳以上でも約32.4%に留まっており、シニア世代の8割程度は自立した生活を営む事が出来ていると推測できます。もちろん、要支援・要介護の認定を受けている人の中にもボランティア活動や周囲の人と良好な関わりを持つ社会参加活動を実践してらっしゃる方がいますので、多くのシニアが一定程度は健康であるにも関わらず社会との関わりが少ないという状況が見て取れます。では、当事者のシニア世代は悠々自適と満足した生活を送っているかというとそうでもなく、同白書において高齢世代の27.7%が生きがいを感じていないことも報告されています。

人生100年時代における3ステージモデルからの脱却

 寿命の延伸に伴う高齢化率の上昇は世界規模で進行しており、現代社会を人生100年時代として、従来の教育・労働・余生という人生の3ステージモデル(図2)からの脱却が必要であることも指摘されています。超少子超高齢社会が本格化するわが国においては、高齢者自身が長寿を前向きに捉え、地域社会の中で生きがいを持ち、他の世代にとっても歓迎される形で社会との関わりを持つことが必要であると考えられます。

 本稿ではある程度お元気な方の社会的活躍について取り上げますが、3ステージモデルからの脱却に含まれるのは生涯現役だけではありません。個人の健康状態や考え方によっては、早期引退や、教育後に労働に入らないという事、また要介護等の健康度が低下した状態も包摂されます。例えば、認知症の方や認知症の介護をされている方が生き辛さや苦労を経験され、それが社会に共有されることで、その生き辛さや苦労は改善に向かう可能性が高まります。認知症の方や介護をされている方にとっては、痴呆と言われていた時代に比べれば認知症基本法が成立した現代の方がまだ生きやすいのではないかと思います(当然ながらまだまだ改善していかなければならない点は多々あります)。この観点に立てば、お元気な状態でなかったとしても生きていらっしゃることそのものが次世代にとって重要な社会貢献になっているとも捉えられます。

図2 人生100年時代における3ステージモデルからの脱却

社会的活躍を実現する方策

地域の中では様々な役割がありますが、周囲から押し付けられた仕事を嫌々引き受けている状況では活躍しているとは言えません。地域で役割を持っていて、更に周りからも活躍していると思われる状況として、ひとつには自分がやりたいと思っている事に生き生きと取り組んでいる、もうひとつには自分の持っている能力や技術、経験を発揮出来る活動をしているという事があります。

地域の中には志を持って地域活動や社会活動に取り組まれている方がいらっしゃいます。一般住民の方に地域活動への志向を持って頂くことを期待して地域活動に目覚めるような啓発活動を展開するのも社会的活躍を促進する手段の1つかも知れませんが、人の心を動かすような講演や取組を行う事は容易ではありません。それよりも、社会的活躍のもうひとつの状況である能力や技術、経験を発揮して頂く方が手堅いと考えられます。

シニア世代に関わらず、何かしら人より秀でた能力を持っている方は社会的に活躍する機会に恵まれていることと思います。また、人に語る事が出来るような特殊な経験を持っている人も地域では重宝されることと思います。どちらにも共通しているのは、その人は成すべき役割が明確であるということです。より具体的に表現すれば、人前に出たときに出来る事があると言い換えることもできます。例えば、若いときにスポーツで活躍した人であれば、周囲の人にスポーツを教える事が出来ると思います。海外で暮らした経験がある人であれば、その国の言葉や文化を人に教える事が出来ると思います。

残念ながら能力や経験は短期間で獲得する事は出来ません。しかし、わざや技術であれば、熟練とまでは言えずともある程度の訓練で身に付けられる可能性があります。そして、わざを持っているということは人前で出来ることがあるということであり、地域で活躍できる手段を持っているということになります。

新しい事を学ぶ事が認知症予防に有効

社会参加とヘルシーエイジング研究チームが行ったこれまでの研究から、シニア世代の方が何かしらの技術を習得する事が社会参加の契機となり、習得した技術を実践する場を持つことで社会貢献に至るという事が示されています。例えば、絵本の読み聞かせ方法や囲碁の打ち方を学んだシニアが、絵本の読み聞かせボランティアや囲碁を教えるインストラクターになるといった形です。それでは、絵本や囲碁の技術を身に付けたシニアの方は何故その技術を身に付けようと思ったのでしょうか。これらの技術を身に付けた人達は、新しい事を学ぶ事が脳への刺激となり認知症予防(認知症の発症遅延)に有効だろうという事でそれぞれの技術を身に付けました。

良くも悪くも認知症はなりたくない病気でダントツ一位の座にあります。健康に無関心な人でも認知症の予防になるという取組には積極的な姿勢を見せやすくなります。言わば、認知症予防という形での健康増進を入口として技術を身に付け、身に付けた技術を実践するという行為が気付けば地域活動になっており、地域の中で役割を持っているという状況になっていました。歩くことが出来るようになった幼児が歩き回りたくなるように、私達は身につけた事や出来るようになった事を実践したくなるという習性があります。それを良い形で利用すれば、最初は志が無かったとしても、結果として自分がやりたい事を地域で実践して活躍しているという状況を作ることが出来そうです。

現在のわが国の状況から多くのシニアの方に社会的に活躍して頂く必要があるわけですが、それを実現するためには地域の役割を押し付けるのではなく、シニアの方それぞれに様々な技術を身につけて頂き、その技術を発揮する形で役割を担って頂く事が有効な方法となります。そのため、新しい技術を学ぶ事は認知症の予防に関連するという啓発とともに、何歳になっても新しい事を学ぶ事ができるような風土と環境を構築することが、シニアの社会的活躍を実現する地域づくりの第一歩とも言えます。