2024.12.10
日本の死亡者数は2040年に約165万人にのぼりピークを迎えると言われています。亡くなる人の増加は、大切な人をなくす人の増加も意味しています。このような人々をいかに支えていくかが急務の課題です。
みなさんは、コンパッション都市という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
コンパッション都市は、社会学者であるアラン・ケレハー博士が提唱したもので、老いや病気、また死や死別をお互いに支え合う地域コミュニティのことを指します。近年、こうした地域づくりの重要性が日本でも注目されてきています。
日本において死別を経験した人へのサポートは医療・福祉における専門職、また宗教者や葬儀社などその活動は広がりを見せています。しかし、大切な人を亡くした人の生活に密着した身近な人々(家族/親族、友人、近所の人など)、つまり地域に住む人々が行うサポートについて取り上げた研究はほとんどありません。
本研究は東京都島しょ部にある離島に着目をしました。
離島は医療・看護資源が十分ではない中でも、自宅での看取り率が非常に高く、住み慣れた地域の中で死別を経験する人が多いことがわかっています。また日頃から島民同士が助け合う互助的な意識が強いこと、またその土地の信仰に基づく儀礼や死生観が根付いているという報告もあり、社会的な面だけでなく島の文化や価値観などからも大切な人を亡くした島民に対して、活発にサポートが行われているのではないかと考えました。
そこで、離島において死別を経験した人へのサポートとはどのようなものなのか明らかにすることにしました。
島民へのインタビュー調査を通して、離島で行われているサポートの全体が見えてきました(図1)。
図1 離島において死別を経験した人に対するサポートの全体図
離島では土地や人口規模の小ささから島民同士の距離が非常に近く、顔の見える関係でお互いの現状をよく理解しやすい環境にあります。こうした環境が仲間を大切にする意識、島民が団結して行動する力、また家族、友人や近隣住民が日頃から助け合える関係性を作り上げ、すでに何かあったときには周囲が素早くサポートできる状況にあります。
1.で示した状況に、同じ島民が亡くなったことを自分のことのように捉えたり,死者の魂を敬い尊ぶなど死者への思いの強さ、また島で行われる独特の葬儀がサポートなしでは大変なものであるという共通の認識が加わりサポートに対する意識を促進させます。
島民の死に対する強い思いと葬儀の大変さという共通理解は死別を経験した島民を積極的に支えていこうという姿勢につながっていきます。そのため、死別を経験した人のもとには人や物が自然と集まり、様々なサポートを受け取ります。具体的なサポート内容は、悲嘆への気遣い/声掛け、 葬儀マニュアルの提供、祭壇の作成や飾りつけ、参列者への食事の準備、 死別後の自宅訪問/生活サポート等が挙げられました。
このようなサポートの特徴的な点として、島民がサポートを受け取ると、同じような境遇にある島民を自分がしてもらったようにサポートしてあげたいという意識につながっていく点です。つまり、サポートへの積極的な姿勢→人や物が集合→サポートの受領というプロセスが良い循環を起こしていることを意味しています。これが離島において死別を経験した人へのサポートが継続して行われてきた重要な要因の一つとなっているようです。
離島では近い存在ならではの親密で積極的なサポートが行われていました。これらのサポートは、死に際して特別に行われるものではなく、日常生活の中における助け合いの延長線上にあるものでした。 また島民は同じ島民の死に対して近い存在だからこそ、自分ごととして捉えており,さらに死別に伴う葬儀が大変なものであるという共通した認識を持ち合わせていました。これは言い換えれば、死別を経験した人に対する深い共感と理解を示しているとも言えます。
他の地域を離島のような地形や人口には変えられませんが、今回の研究から明らかになった共感や理解は土地や文化を超えた重要な点だといえます。まずは、身近にいる死別を経験した人に関心を持つこと、そして理解しようとすることが大切ではないかと思います。こうした地域住民の方々の関心や理解の積み重ねが、やがて地域全体(ご近所、学校、職場などあらゆる生活の場)で死別を支える大きな力につながっていくのではないかと考えています。
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