東京都健康長寿医療センター センター長 秋下雅弘(あきしたまさひろ)
4月より許 俊鋭先生の後任としてセンター長に就任いたしました秋下雅弘です。前職は東京大学老年病学/老年病科教授で、老年医学を専門としてその臨床・研究・教育に邁進してまいりました。どうかよろしくお願いいたします。
東京都健康長寿医療センターは病院と研究所から成ります。病院は、2024 年3 月現在、約130名の常勤医師、約120 名の非常勤医師、約500 名の看護師、約170 名の医療技術者など1,000名をこえる職員で運営しています。また、地域の多数のボランティアの皆様にも支えて頂いています。
当センターはご高齢の方に多い心血管医療、がん医療、認知症医療、糖尿病治療を重点医療としておりますが、その他の疾患についても優秀なスタッフと十分な診療設備を備え、救急医療にも力を入れています。小児科、産科関連疾患を除くすべての疾患の診療が行えます。
2013(平成25)年6 月に新しい病院に移転いたしましたが、移転に際しPET-CT、320 列CT、3 テスラ―MRI、ハイブリッド手術室など最新の設備と技術の導入をしました。下肢難治性潰瘍に対する血管再生療法、遺伝子診断に基づく医療など以前から最先端医療も手掛けておりましたが、新病院への移転を機にさらに種々の分野におきまして医学の進歩を取り入れた最新の医療を提供させて頂いています。内視鏡手技やカテーテル手技を駆使した低侵襲手術の導入にも積極的に取り組み、豊富な経験を生かした専門性の高い内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)や超音波内視鏡下穿刺術(EUS-FNA)、胸部・腹部大動脈瘤に対するステントグラフト治療なども最近症例数が飛躍的に増加しています。利用しやすい外来配置、プライバシーの保持にも十分に配慮した広々とした病室など療養環境もご満足いただけるものと思っております。
当センターは、それぞれの患者さん、ご家族の方々への十分な説明に基づく同意を頂いた上で、(1)質の高い医療、(2)退院後の"生活の質"を考慮した医療、(3)地域の医療機関・介護施設との連携した一貫した医療を提供いたします。退院に際しましても、退院後の生活が円滑に行えるように最大限の支援をさせて頂きます。
当センターに受診を希望される場合は、是非かかりつけの先生の紹介状をご持参ください。紹介状を頂くことにより、病気の状態や今までの経過が良くわかり、無駄のない適切な医療が迅速に行えます。
ご高齢の方、また中年期の方々が活動的な高齢期を迎えられるように、日進月歩の医学・医療の進歩を取り入れ、安心かつ安全な医療を提供させて頂こうとスタッフ一同真摯な努力を積み重ねております。より多くの方々が、当センターをご利用下さるようにお願い申し上げます。
副院長(呼吸器外科部長兼務) 安樂真樹(あんらくまさき)
4 月より副院長を拝命しました安樂真樹(あんらくまさき)と申します。
地域の皆さまのお役に立てるよう精一杯努めます。以下診療のお話と、副院長として関わる取り組みについて述べます。
専門が呼吸器外科ですので、主に肺がんの患者さんに手術を提供してまいりました。常に心がけておりますのは、分かりやすい説明です。
医療も進歩してきましたので、手術のイメージ(痛い、怖い、回復のために長い入院が必要、など)もずいぶん変ってきました。病気や手術の内容(術式)によりますが、可能な限り胸腔鏡(カメラ)を用いて小さなキズで手術を行う工夫を凝らしていますので、術後の痛みも少なく、結果として短い入院期間(肺がん手術の場合おおよそ1 週間)で自宅に帰ることができるようになっています。年内にロボット支援手術の導入も予定しておりますので、さらに複雑な手術も低侵襲(体へのダメージが少ない)で提供できるようになろうかと思います。
病気と診断されて手術を受けるとき、不安がない方はいらっしゃいません。できるだけ安心して治療に臨んでいただけるよう、患者さんやご家族と共に最善を考える、そのような心持ちです。
病院での今後の取り組みです。当センターは災害拠点病院の指定を受けております。自然災害はいつやってくるか分かりませんが、行政機関をはじめ、医師会、地域の医療機関と協力して、災害時にもお役に立てるよう努めます。これからも地域のセンターとして安心安全な医療を提供するべく工夫と実践を重ねてまいりますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
胸腔鏡(カメラとテレビモニター)を使用して、小さなキズで手術を行っている様子
心臓血管外科部長(診療科長)、血管外科部長(診療科長) 河田光弘(かわたみつひろ)
(実際の経験例)80 歳代後半の女性。17:20 頃に突然うなり声を上げ胸背部痛、左腕脱力を訴えました。息子さんが救急車を要請しました。救急隊が到着し左腕の血圧は低くて測定できませんでした。某大学病院救命救急センターへ搬送された時には腕の血圧に左右差があり、左腕は動かせなく( 不全麻痺)、左足には触った感覚がない( 感覚鈍麻) 状態でした。CT 検査で急性大動脈解離Stanford A 型の診断となり、緊急手術が必要であると判断されましたが、その大学病院では、その時間帯で手術室が対応できないとの事で、他に緊急手術ができる病院へ再度搬送しなければなりませんでした。そこで、急性大動脈スーパーネットワークの一員である当院へ転院して、緊急手術をしてくれないか?と連絡が入り、当院で受け入れることはできます!とお返事しました。同時に手術に必要な検査結果もFAX などで迅速に送ってもらえました。当院の麻酔科医、手術室ナースにも連絡し緊急手術準備を始めました。患者さんは19:12 当院に到着しました。すぐに集中治療室にて緊急手術の説明、同意を得てから、鎮痛、鎮静をして人工呼吸器装着し、各種点滴ラインを確保して、20:10 手術室に入り緊急手術として上行大動脈置換術を行いました。無事に救命出来て、術前に出現していた左半身の麻痺症状は右脳へ血流がしっかりと届くようになり、術後は改善してゆきました。術後1か月で退院できました。現在90歳代前半になりご健在です。
笑福亭笑瓶さん、もんたよしのりさん、少し前では、大滝詠一さんが急性大動脈解離という病気でお亡くなりになったと報道されました。突然起こりうる怖い大動脈疾患です。
東京都において、急性大動脈疾患( 急性大動脈解離、大動脈瘤破裂など) に対し循環器内科と心臓血管外科が協力して緊急診療体制をとり、効率的に患者さん受入れを可能とする「急性大動脈スーパーネットワーク」が、2010 年11 月1 日午前9時よりスタートしました。
当院は2015 年10 月1 日より緊急大動脈支援病院として参加しております。
この急性大動脈スーパーネットワークの目的は、「緊急大動脈疾患に対しより効率的な患者搬送システムを構築し、時間依存性の本症への迅速な外科治療等の実施体制を設け、死亡例を減少させ、都民の健康維持に寄与すること」にあります。急性大動脈スーパーネットワークのホームページに示されています。つまりこの急性大動脈疾患が起こった場合に、早期診断・早期手術治療が救命のカギになります。前述の経験例は、急性大動脈解離Stanford A 型でしたので、手術なしで様子を見ていると発症から48 時間以内に50% が死亡してしまうと報告されています。例え大学病院救命救急センターに搬送されても手術室が空いていない場合や、心臓血管外科医が他の手
術中である場合は、迅速に緊急大動脈手術ができる施設に搬送して手術が受けられることが救命に繋がります。緊急大動脈手術のための病院間ネットワークがあったため、前述の経験例は、緊急大動脈重点病院である大学病院から、緊急大動脈支援病院である当院へスムーズに転院し緊急手術にて救命出来ました。
現在、急性大動脈スーパーネットワークの参加病院は、緊急大動脈重点病院(14 施設)と緊急大動脈支援病院(28 施設)により構成されています。
詳細は急性大動脈スーパーネットワーク ホームページをご参照下さい。
URL: https://www.ccunet-tokyo.jp/acute-aorta
当院におけるコロナ禍である2020 年~ 2023 年における年間の急性大動脈スーパーネットワークに係る受け入れ件数を下記に示します。
・2023 年23 件 ・2022 年23 件 ・2021 年29 件 ・2020 年23 件
この件数は、下記のコロナ禍以前の受け入れ件数よりも増えておりました 。
・2019 年11 件 ・2018 年15 件 ・2017 年16 件 ・2016 年16 件
・2015 年10 件
(2015 年10 月1 日 ~急性大動脈スーパーネットワーク支援病院に認められました)
心臓血管外科の3 名( 河田光弘、乾明敏、村田知洋)、血管外科の2 名( 松倉満、牧野能久) は全員心臓血管外科専門医です。また胸部ステントグラフト内挿術、腹部ステントグラフト内挿術、浅大腿動脈ステントグラフト内挿術などの血管内治療も緊急対応しております。
心臓血管外科の1 名( 眞野曉子) は循環器専門医・集中治療専門医であり集中治療室にて重症管理を熱心に行っております。この心臓血管外科・血管外科と、循環器内科とが密に協力して、麻酔科医、集中治療室看護師、手術室看護師、臨床工学技士、放射線技師、リハビリテーション科、栄養科、薬剤師、一般病棟看護師の協力も得て、患者さんが緊急手術を安全に受けられて、元気に退院できるように日々診療活動をしています。
SCU 室長・脳神経外科専門部長 高梨成彦(たかなししげひこ)
2024 年2 月28 日、脳卒中ケアユニット(以下SCU)を移転・拡張しました。脳卒中専用の病床が増えることで、より多くの患者さんを受け入れて治療を提供できることになります。
脳卒中は突然に発症し、すみやかに診断と治療が行われなければ数時間で大きく悪化してしまいます。最初の治療が終わってからも1 ~ 2 週間は不安定で、病巣が拡大してしまうことがあります。患者さんの全身状態をよく観察して変化に対応しなければいけません。しかし患者さんに安静に寝ていてもらうだけでは身体が衰えますので、安全かつ必要十分な範囲を見きわめてリハビリテーションを行います。そして栄養が不足すれば体力が落ちて治療の効果が低くなりますから、栄養状態や嚥下の機能を評価して栄養の計画を立てることも大切です。そして回復期リハビリテーション病院への移動を準備するために、病状と家庭の状況をふまえて転院先と調整を進めることも必要です。
このような多面的な治療を行うためにSCU では専門の医師、看護師、薬剤師、リハビリテーション科の理学療法士・作業療法士・言語聴覚士、栄養士、ソーシャルワーカーといった多くの職種のスタッフが連携して活動しています。SCU で治療を受けた脳卒中患者は死亡率が低く、日常生活が自立して自宅に退院できる率が高くなることが報告されています。当院のSCU は2017 年に集中治療室の一部分・6 床を転用して始まりました。年間平均300人程度の患者さんが入院されてきましたが、常に満床がつづき救急搬入をお断りせざるを得ないことも少なくありませんでした。増床する計画はコロナ禍で先送りになっていましたが、この度ようやく実現しスタッフは増員され、今後はさらに多くの脳卒中患者さんを受け入れることができるようになります。1人でも多くの脳卒中患者さんに最適な治療を提供することができるように、SCU スタッフ一丸となって邁進して参りますので、ご理解ご協力のほどよろしくお願いいたします。
毎朝に多職種のスタッフが集まり、すべての患者の現状と治療方針を相談します