第177号

高齢者の乾癬とアトピー性皮膚炎の分子標的治療

緩和ケア内科の診療体制が強化されました

認知機能向上を目指す『ホームレクササイズ』教材・動画を公開しました。

第169 回老年学・老年医学公開講座を開催しました

高齢者の乾癬とアトピー性皮膚炎の分子標的治療

皮膚科 部長 種井良二(たねいりょうじ)

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分子標的治療とは

全身の病気の病態メカニズムをタンパク分子や遺伝子のレベルで解析して、各疾患の病態で最も重要な働きを担っている分子(標的)をピンポイントで制御して、疾患を軽快や治癒させることを試みる療法を「分子標的治療」と言います。今回は、皮膚科領域の代表的な炎症性疾患である乾癬とアトピー性皮膚炎の高齢者症例での分子標的治療について概説します。

乾癬とアトピー性皮膚炎の特徴と分子標的治療

  • 乾癬の症状と病態

皮膚の角化異常を伴う炎症性皮膚疾患で、近年ではメタボリック症候群(肥満、脂質異常、耐糖能異常など)と関係する全身性炎症の皮膚表現型として特徴づけられています。臨床的には表面に鱗屑(白い膜)が固着した紅斑が散在性あるいは局在性に発症し、関節症状を伴う場合は付着部炎というアキレス腱や足底などにも痛みや腫れがみられる特殊な関節炎を呈します(乾癬性関節炎)。

乾癬の病態に関しては皮膚の何らかの抗原に反応して活性化した抗原提示細胞が、サイトカイン(炎症反応誘導する分子)であるTNF(腫瘍壊死因子)- αやIL(インターロイキン)-12/IL-23 を分泌して、これがT リンパ球よりのIL-17 / IL-22 の 分泌を誘導して乾癬に特徴的な病像が形成されると考えられています。

  • アトピー性皮膚炎の症状と病態

アトピー性皮膚炎は、頑固な痒みを伴う湿疹を特徴とする小児の代表的なアレルギー性疾患ですが、現在では成人期のみならず高齢期にも症状が発現しうるlifelong condition(生涯にわたる疾患) であると考えられています。アトピー性皮膚炎はドライスキンなどの皮膚のバリア障害を起因としてT リンパ球などがIL-13 やIL-4 を分泌して、これが痒みのサイトカイン(※ 2)であるIL-31 などを誘導してType2 炎症という特徴的なアレルギー性炎症を形成することが明らかとなっています。

  • 乾癬とアトピー性皮膚炎の高齢者症例での分子標的治療

分子標的治療薬は上記のサイトカイン分子の活性化を細胞の内部で抑制するPDE(ホスホジエステラーゼ)4 阻害薬やJAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬と、サイトカイン分子を細胞外でブロックする生物学的(バイオ)製剤に大きく分類されます(図1)。

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乾癬では内服薬のPDE4 阻害薬やJAK(TYK2)阻害薬、皮下注射薬としてバイオ製剤の抗IL-12/IL-23、抗IL-23, 抗IL-17 の各抗体製剤が主に使用されます。アトピー性皮膚炎では各種のJAK(主にJAK1)阻害内服薬、生物学的(バイオ)製剤の抗IL-4/ IL-13、抗IL-13、抗IL-31 の各抗体製剤皮下注射薬が使用可能です。

これらの治療薬の登場により難治な乾癬やアトピー性皮膚炎も容易に寛解(※1)導入出来るようになりました(図2、3)。

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一般的に高齢者ではよりピンポイントな分子制御が可能なバイオ製剤の方が副作用のリスクが少なく使い易いです。当科では病変の重症度や治療薬の適性あるいは患者さんが負担可能な医療費などを考慮して個々の症例に最適な療法を選択しています。

用語解説
※1 寛解:病気や怪我が一時的によくなり、症状が抑えられていること。
※2 サイトカイン:細胞から分泌され、さまざまな細胞に作用する タンパク質の総称。

緩和ケア内科の診療体制が強化されました

緩和ケア内科 部長 中島豪(なかじまごう)

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小髙桂子(こだかけいこ) 医師着任

8 月1 日より、新しく小髙桂子医師が医長として緩和ケア内科に加わりました。小髙医師は麻酔科の出身であり、その知識や技術を活かして、大学病院や地域の基幹病院でがん患者さんの疼痛緩和治療に長らく貢献してきました。全国的にはまだ数少ない日本緩和医療学会の専門医/ 指導医を取得しており、緩和医療の専門家として、痛み、吐き気、息苦しさなど、がんによる多彩な苦痛症状への対応を担っています。若い医師への指導的立場でもあり、当センターでの緩和ケア診療が大きく拡がるものと期待しています。

病状や病態への対応だけでなく、患者さんの気持ちに寄り添ったコミュニケーションで、病気に向き合っている患者さんやご家族を支えています。がんと診断されて生活に支障を来すような症状にお困りの際は、お気軽にご相談ください。

小髙桂子(こだかけいこ) 医師
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20 床すべての病床を開けての運用開始

当センター12 階にある緩和ケア病棟は、これまで14 床までの縮小した体制で診療を行っていましたが、8 月1 日より医師や看護師を増員し20 床すべての病床を利用しての運用を開始しました。縮小体制では、ご希望いただいた患者さんやご家族をお迎えするまでに時間がかかり、お待たせすることがしばしばありましたが、これからは症状にお困りの患者さんを少しでも早く、少しでも多くお迎えできるよう努力してまいります。がん患者さんの苦痛を軽減させて、穏やかでその人らしい生活を送れるようお手伝いをいたします。

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トピックス:患者さんサービス向上のため、寝たまま入ることができる最新型のシャワー入浴装置を導入しました。

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トピックス:ひな祭り、夏祭りなど季節のイベントを積極的に行っています。

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トピックス:病棟では、音楽療法士による演奏をお楽しみいただけます。

緩和ケア内科の受診方法

がんの症状でお困りの方だけでなく、がん相談、がん治療の相談、療養相談、介護問題、人生会議(自身が望む医療やケアについて事前に家族や医療チームと繰り返し話し合い共有する取り組み)など、ぜひお気軽に緩和ケア内科を活用してみてください。 通院が出来る方は他の診療科に合わせて緩和ケア内科を"ついで受診"していただけます。抗がん剤治療など、がんの治療中でも受診可能です。他の病院で治療中の方でも対応いたします。受診ご希望の方は予約センターへお問い合わせいただくか、主治医へ受診希望の旨お伝えください。

いますぐではなくても、がんが進行して症状が強くなった時に緩和ケア病棟への入院を希望する場合や、まだ入院するかどうかわからないけど、緩和ケア病棟への入院の可能性がわずかでもある場合、「緩和ケア病棟入院相談外来」を受診し登録しておくことで、入院が必要となったときによりスムースに緩和ケア病棟へご案内することができます。地域
連携係(外来1 階8 番窓口)で緩和ケア病棟の概要の説明や入院相談外来の予約を取ることが出来ますので、まずはご相談ください。

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公式YouTube チャンネルに「緩和ケア病棟のご紹介」動画を公開しています。ぜひご覧ください!
https://www.youtube.com/watch?v=_mEx3hKChmY&t=1s

認知機能向上を目指す『ホームレクササイズ』教材・動画を公開しました。

リハビリテーション科では、皆さまの生活のお役に立てる効果的な方法を見出そうと、認知機能向上を目指す『認知レクササイズ』、『運動レクササイズ』の両プログラム(『心身レクササイズ』)を作成しました。

この度、これらをより多くの皆さまに活用いただくため、ご自宅でも実践できる『ホームレクササイズ』を、
東京都健康長寿医療センターホームページ、公式YouTube チャンネルに公開しました。

以下の二次元コードより教材や動画にアクセスいただき、ぜひご自身のペースで楽しみながらお取組みください。

心身レクササイズ:認知レクササイズ(プリント教材)『わくわくホームワーク』

日常生活の中で物忘れなどが気になりはじめた人向けに制作された脳に働きかける問題集です。見やすさを重視し、高齢者が取り組みやすい形を心がけ、楽しく取り組めるよう工夫しています。

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教材のダウンロードはこちら!▼
高齢者いきいき外来

心身レクササイズ:運動レクササイズ(動画教材)『わくわくホームレクササイズ』

山崎律子氏(余暇問題研究所)との共同で制作した高齢者向けのレクリエーション体操です。
有酸素運動やジャンケンを用いた切り替え運動などを行い、脳機能の賦活を図ります。

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動画の視聴はこちら!▼
【はじめに】
https://www.youtube.com/watch?v=JS1NPdyG4Ew&t=16s

【基礎編】
https://www.youtube.com/watch?v=O0fU_b1rEAQ&t=5s

【応用編】
https://www.youtube.com/watch?v=e9-QF3aLx4s

【解説編】
https://www.youtube.com/watch?v=_-tTHsoZt0E&t=11s

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高齢者いきいき外来について
リハビリテーション科では軽度認知障害の早期診断・治療のために「高齢者いきいき外来」を開設しています。「高齢者いきいき外来」の診察予約は予約センター(03-3964-4890 直通)にお電話ください。1 階会計カウンター予約窓口でも受け付けています。
 高齢者いきいき外来の内容についてのお問い合わせは病院代表電話(03-3964-1141)からリハビリテーション科外来へお願いします。

第169 回老年学・老年医学公開講座を開催しました

7 月25 日(木曜日)に文京シビックホール大ホールにて第169 回公開講座『アルツハイマー病の新しい治療薬『レカネマブ』とは? -認知症と共に暮らす共生社会の実現―』を開催しました。当センター所属の4人の講師より、アルツハイマー病の新しい治療薬「レカネマブ」を用いた治療の実際、認知症治療薬の開発に関する最新情報、アルツハイマー病の早期診断・治療のためのアミロイドPET 検査、認知症の人を含むすべての人が個性と能力を発揮し、お互いを尊重し合いながら支え合う社会(共生社会)の実現に向けた政策づくりについて講演が行われました。当日の講演動画は10 月10 日(木)より当センター公式YouTube チャンネルにて公開予定ですので、参加できなかった方、講演内容を復習されたい方は是非ご覧ください。

参加者の声
・一般的に伝えられていないこと・難しい内容をわかりやすく知ることができた
・認知症の治療は確実に進歩していることを実感できた
・周囲にも学んだことを広めたい

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左から:研究所 副所長 石神昭人、脳神経内科 医長 井原涼子、副院長(脳神経内科部長) 岩田淳、神経画像研究チーム専門部長 石井賢二、認知症未来社会創造センター センター長 粟田主一