消化器・内視鏡内科 部長 小野敏嗣(おのさとし)
近年大腸がんは増加傾向にあり、国立がん研究センターから発表されている統計によると、2023 年のがん死亡推移における大腸がんの順位は男性で2 位、女性で1 位となっています。
他臓器のがんと同じように大腸がんの治療においては早期発見・早期治療が非常に重要ですが、大腸がんを含めた消化管がん( 食道がん・胃がん・大腸がんなど) はよほど進行しない限り症状が出ることはありません。
検診などでは簡便な検査として便潜血検査が行われていますが、便潜血検査の偽陰性率は15%前後と言われています。つまり、便潜血検査で陰性となった場合でも20 人のうち3 人くらいの確率で大腸がんを含めた大腸病変の可能性があることになります。
大腸がんのリスク因子としては、喫煙・飲酒・肥満・運動不足・野菜摂取不足・加工肉摂取などが知られています。胃がんのリスク因子としてはピロリ菌感染が非常に重要ですが、大腸がんにおいては一部の遺伝性疾患を除いて圧倒的なリスクとなる因子はなく、むしろ現代人の誰しもが抱えうる生活習慣がリスク因子となっています。
そういった意味では誰しも罹患する可能性がある一方で進行しない限り自覚症状も出ないのが大腸がんということになります。
便潜血以外にも大腸がんの検査には採血やCT など様々なものがありますが、その多くは便潜血検査と同じように偽陰性という問題があります。その中で唯一偽陰性がゼロに近い検査が大腸内視鏡検査であり、かつ唯一組織を採取して確定診断が得られる検査でもあります。また、検査中に見つかった病変も小さなものであればそのまま内視鏡治療を行うことも可能です。比較的大型の病変の場合では改めて入院のうえで内視鏡治療( 内視鏡的粘膜下層剥離術・内視鏡的粘膜切除術) が必要になることもありますが、切除した病変を病理学的に評価したうえでリンパ節転移の可能性が低いがんであることが分かればそれ以上の治療は不要になります。
さらに大腸がんによる死亡を予防するためには「クリーンコロン」を維持することが非常に重要であることが明らかになっています。「クリーンコロン」とは大腸の中の前がん病変を全て取ってしまった状態のことで、前がん病変が多発していても大きなものから順番に内視鏡治療を繰り返して切除することで達成されます。「クリーンコロン」を達成した後はその維持も重要ですので、基本的には3 年に一度の大腸内視鏡検査を行うことになります。逆に言うと、今まで大腸内視鏡検査を受けたことがない方はもちろん、過去3年間大腸内視鏡検査を受けていない方には大腸内視鏡検査をお勧めします。
進行しないまで症状が出ないというのは胃がんや食道がんも同様であり、これらのがんも早期発見することで内視鏡治療で根治させることが可能です。もちろんそのためには定期的な上部消化管内視鏡検査を受ける必要あり、特にピロリ菌がいたことがある方は除菌後であっても年一回の上部消化管内視鏡検査は必要です。そういった方の場合、当院では鎮静剤を使用した状態で苦痛の少ない大腸内視鏡検査と同日に上部消化管内視鏡検査を行うことが可能です。もし消化管に不安がある場合にはまずは主治医の先生にご相談下さい。
耳鼻咽喉科 医長 鈴木康弘(すずきやすひろ)
難聴には大きく分けて3 種類あります。
1. 伝音性難聴(外耳や中耳に問題がある)
2. 感音難聴(内耳から脳にかけて問題がある)
3. 混合性難聴(1と2の両方が存在する)
1の代表は、急性中耳炎、滲出性中耳炎、耳垢栓塞です。これらはいずれも何らかの治療をすることで改善します。
2の代表は、突発性難聴、加齢性難聴です。
突発性難聴は、一般的にステロイド漸減療法という治療を行いますが、改善する人もいれば改善せずに難聴が残る人もいます。加齢性難聴は、その名の通り加齢に伴って生じる難聴ですが、治療法はありません。しかし難聴の状態のままでは、日常生活に支障があるだけでなく、コミュニケーションの減少や社会参加の減少、危険察知能力の低下等から認知機能の低下、つまり認知症発症の誘因になる可能性があります。アルツハイマー病やうつ病の発症率を増加させるという報告もあります。生活の質を高めるために、加齢性難聴の方には補聴器をお勧めすることになります。しかし補聴器は器械ですので効果に限界があり、特に高度難聴の方は、補聴器を使ってもコミュニケーションが取れるようにならない事もあります。そのような高度難聴の方の治療法に人工内耳があります。
人工内耳は大きく2つのパーツで構成されており、体外に装着するサウンドプロセッサ(送信用コイル)と、皮下に埋め込むインプラント(受信装置)です(図1)。さらにインプラントには蝸牛内に挿入する電極がついています(図2)。インプラントと電極は外科手術で挿入します。サウンドプロセッサは、補聴器に似た耳掛けタイプのものと、円盤型のコイル一体型があります(図2)。いずれの形式でも、器械自体は高額です。しかし人工内耳の適応になるのは高度難聴の方ですので、身体障害者(聴覚障害)の申請が可能です。福祉の方で器械の費用を助成してくれますので、実際の負担は少なくなります(手術の費用は別にかかります)。手術の合併症として、顔面神経麻痺や痙攣などの報告があります。
図1 マイクから取り込まれた音は、変換装置で電気信号に変換されます。送信用コイルから受信装置に伝えられ、その情報が電極を通して蝸牛から直接聴神経に伝えられ、脳が音として認識します。
図2 コクレア社ホームページより
補聴器は、定期的に器械からの出力などを修正して、少しずつ耳の状態に合わせていく調整という作業が必要になり、装用してすぐに聞こえるようになるわけではありません。人工内耳も同様で、手術をしてもすぐに聞こえるようになるわけではありません。人工内耳を通じた音は器械的に合成された音なので、言葉として聞き取れるようになるためには、補聴器の調整に似た、リハビリテーションが必要になります。リハビリテーションは、一般的に言語療法士という資格を持った方が行います。
日本では1985 年から行われるようになった人工内耳手術ですが、手術件数は年々増加しており、特に小児と高齢者の症例が増加しているという統計が出ています。補聴器を試してみたがうまく聞き取れるようにならなかった高度難聴の方で人工内耳に興味がある方は、一度外来で相談していただければと存じます。適応の判断から障害者手帳の申請まで、実際の手術から術後の経過観察、リハビリテーションまでトータルに対応させて頂きます。
副院長(臨床工学科 部長) 安樂真樹(あんらくまさき)
臨床工学科 技士長 高岡祐子(たかおかゆうこ)
臨床工学技士は1988 年に施行された国家資格者です。医療機器の専門医療職者として医師・看護師・各種の医療技術者とチームを組んで生命維持装置管理を担っています。
当センターでは、2025 年1 月現在、臨床工学技士19 名が以下の業務に携わっています。
2024 年4 月より、医師の働き方改革におけるタスクシフトが始まり、臨床工学技士は様々な場所で活躍しています。
主な業務一覧 血液透析センター・血液浄化業務、手術室業務、集中治療室業務、呼吸治療業務、補助循環業務 心血管カテーテル業務、不整脈業務、医療機器管理業務、内視鏡業務、機器教育業務、当直業務 |
臨床工学技士は、他の職種に比べ患者さんと直接関わる事は少ないですが、医師の指示の下、医療機器を駆使し、患者さんの安全・安心を担うチームの一員として24 時間、365 日院内に常駐しております。