新しい高用量インフルエンザワクチンはこれまでのインフルエンザワクチンとどう違うか?

副院長 原田 和昌(はらだ かずまさ)
インフルエンザウイルスの感染は、呼吸器系疾患や循環器系疾患などのさまざまな合併症を引き起こします。特に高齢者では、インフルエンザの重症化率と合併症発症率とが高いのですが、加齢によってワクチンに対する免疫応答が低下するため、インフルエンザワクチンの予防効果が十分でない可能性がありました。このような課題に対し、これまでの標準用量インフルエンザHAワクチンの4倍の抗原量を含有する高用量インフルエンザHAワクチン、「エフルエルダ®筋注」が2024年12月に日本でも承認されました(図1)。また、75歳以上の高齢者に対して「エフルエルダ®筋注」を2026年10月から定期接種することが決まりました。
(イメージ図)
(図1)各インフルエンザHAワクチンに含まれるHA抗原量
インフルエンザは呼吸器系疾患だけでなく、循環器系疾患、すなわち、心筋梗塞、心不全、不整脈などを増やします。
65歳以上がインフルエンザにかかると心筋梗塞が増えると報告されました。また、高齢者がインフルエンザで入院すると日常生活動作(ADL)が低下する可能性があります。インフルエンザワクチン接種と全死亡を調べた試験を集めた研究によると、ワクチン接種は全死亡を25%低下し、重大な心血管イベントを34%低下しました。
そのため、心不全や急性冠症候群のガイドラインではインフルエンザワクチン接種を勧めています(図2)。さらに、海外で使われている高用量インフルエンザHAワクチンはこれまでの標準用量インフルエンザHAワクチンと比較して、抗体応答を向上しインフルエンザの発症、入院を抑えます。昨年報告されたオランダのDANFLU-2試験とスペインのGALFLU試験との統合解析では、インフルエンザまたは肺炎による入院、心肺疾患による入院、あらゆる原因による入院を減少させました。
炎症-老化(Inflammaging)という言葉があります。炎症が老化を促進するという概念です。インフルエンザなどの炎症はフレイルを悪化させて老化を加速するのかもしれません。高齢者では高用量インフルエンザワクチン接種によって炎症-老化の悪循環を断ち切ることで、フレイル予防、老化の進行を予防できるかもしれません。
(図2)ガイドラインにおけるインフルエンザワクチン接種の推奨

感染症内科 専門部長 小金丸 博(こがねまる ひろし)
水痘・帯状疱疹ウイルスは、初めての感染では「水痘(水ぼうそう)」として発症しますが、症状が治まった後もウイルスは神経節に潜伏し、生涯にわたって体内に存在し続けます。そして、加齢やストレス、免疫力の低下などをきっかけに、この潜んでいたウイルスが再び活性化することがあります。これが「帯状疱疹」という感染症で、体の片側に痛みを伴う水ぶくれが現れるのが特徴です(写真)。日本人の約3人に1人が一生のうちに一度は発症するといわれ、高齢になるほど重症化しやすく、発疹が治ってもピリピリした痛みが長く続くことがあります。
帯状疱疹の皮疹
この帯状疱疹は、ワクチンで予防できる感染症です。現在は効果の高い不活化ワクチン(商品名:シングリックス)が利用でき、発症や痛みを9割以上防ぐことができます。2025年度からは定期接種が始まりました。年度内に65歳になる方が対象となりますが、経過措置として70歳、75歳、80歳などの節目の年齢になる方も対象となります。
さらに近年、帯状疱疹は心血管疾患や認知症との関連が注目されています。帯状疱疹を発症した人では、その後に心筋梗塞や脳卒中、認知症を起こすリスクが高まるという研究報告があり、ワクチン接種によりそれらのリスクが下がる可能性も指摘されています。神経の炎症を防ぐことが、脳の健康維持につながるのではないかと考えられています。
帯状疱疹ワクチンは、「痛みの予防」だけでなく、「健康寿命を延ばす」ための新たな選択肢です。当センターでは、帯状疱疹不活化ワクチン「シングリックス」を感染症内科外来で接種することができますので、事前に予約を取得したうえで外来までお越し下さい。

精神科 部長 古田 光(ふるた こう)
精神科は、高齢者を主たる対象とした老年精神科として外来及び入院診療を行っています。精神科入院病棟は11 階にあり、開放的なデイルームからはスカイツリーがよく見えます。検査や治療のための入院の他、
ご本人・ご家族のレスパイト目的の入院も可能です。受診相談や入院相談については、認知症の有無に関わらず認知症専門相談室の相談員が対応しています。
うつ病は老年期の精神疾患として代表的な疾患です。高齢者のうつ病は、認知症や身体疾患と間違われやすく、見逃されがちですが、適切な診断と治療によって改善が期待できるこころの病気です。気分が落ち込
む、悲観的な考えにとらわれる、やる気が出ない、趣味を楽しめなくなった、不安で落ち着かない、調子が悪くて内科で検査をしても身体的に問題はないと言われる、こういった症状はうつ病の可能性もあります。
精神科では今年、専門外来として「高齢者うつ病外来」を開設しました。「高齢者うつ病外来」では、うつ状態が遷延している方、うつ病の疑いで精神科受診を勧められた方に対して、精神科医師による専門的な評価を行い、診断に応じて精神療法、薬物療法、脳刺激療法(電気けいれん療法)等を行います。また、高齢者うつ病の病因解明や適切な治療法の発展のための研究もおこなっています。
高齢者うつ病外来ロゴマーク
65 歳以上で
●通院中の医師からうつ病と診断されていて、一般的な抗うつ薬の治療では十分な効果が得られなかった方
●かかりつけ医療機関から、うつ病疑いといわれ精神科の受診を勧められた方
電気けいれん療法は、頭部に電気刺激を与えることで、うつ病や緊張病等の精神症状に高い効果を示す治療法です。当院では、認知機能障害のリスクが低い右片側刺激を原則とした修正型電気けいれん療法を施行しており、毎年延べ200 件以上の実施実績があります。2026 年にはこれまでの機器の倍の出力を持つ最新型パルス波治療器を導入予定で、さらなる治療効果が期待されます。難治性うつ病や重症うつ病で、電気けいれん療法を検討されている方は是非ご相談ください
その他の専門外来として認知症の行動心理症状を対象とした「NPS 外来」を設置しています。同外来では現在認知症の方で、幻覚(実際にないものが見えたり聞こえたりする)や妄想(事実と異なることを信じ
込んで訂正がきかない)症状のある方に対して、新規薬剤の治験を行っています。ご興味がある方はお気軽にご相談ください。
精神科外来では、うつ病、認知症に限らず、ご高齢の方のあらゆる精神症状の診療を行っています。精神的な不調でお困りの方はお気軽にご相談ください。他院精神科通院中の方は、治療経過の情報が重要となりますので、診療情報提供書をご持参よろしくお願いします。
感染管理認定看護師 金谷 育子(かなだに いくこ)
私の勤める感染対策室では、患者さんとご家族の皆さまが 安心して治療に専念できる環境 を守るために、日々さまざまな取り組みを行っています。
私は「感染管理認定看護師」として、皆さまに直接お会いする機会は多くありませんが、院内の安全を支える役割を担っています。普段は病院内を巡回し、手指衛生(手洗い・消毒)の状況や、手袋・エプロンの正しい使用、環境の清潔さなどを確認し、必要があれば職員へ改善のサポートを行っています。
▲院内を巡回して、改善のサポートを行っています
また、すべての職員が正しい感染対策を実践できるよう、勉強会や研修を企画し、知識と技術の向上にも取り組んでいます。職員一人ひとりの行動が、患者さんやご家族を感染から守る大切な力になります。
さらに、院内で発生する感染症のデータを毎日集めて分析する「サーベイランス」を行い、感染の兆しを早期に見つけられるよう努めています。もし感染が広がる可能性があれば、すぐに関係部署と連携し、迅速に対応策をとる体制を整えています。
これからも、患者さんとご家族が安心して治療に向き合えるよう、院内全体と協力しながら、感染対策の強化に努めてまいります。
▲リハビリ科で嘔吐物処置の勉強会実施
11月11日、東京都健康長寿医療センター前身の養育院院長渋沢栄一翁の命日にちなみ、当センター敷地内 渋沢栄一像が渋沢翁ゆかりの藍色にライトアップされました。
※本事業は、関東大震災の際に復興の先頭に立ち、罹災者支援や義捐金の募集など、様々な支援活動に尽力した渋沢翁の「逆境の時こそ、力を尽くす」という精神を受け継ぎ、逆境に負けずに戦うすべての方々への応援の気持ちを込めて実施するものです。(東京商工会議所HP より)