メンバー
リーダー |
研究部長 小林 江里香 |
研究員(常勤) |
村山 陽、小島 みさお(プロジェクト) |
技術員(常勤) |
森 裕樹 |
非常勤研究員 |
清野 諭、長谷部 雅美、山口 淳、竹内 真純、平松 正和、秦 俊貴 |
非常勤技術員 |
堀 左馬之介 |
その他研究スタッフ |
城寳 佳也、風間 弘美、中町 猛士、藤田 美菜子 |
キーワード
社会的孤立、生活困窮、孤立予防、PDCAサイクル、通いの場、COVID-19、地域差、出生コホート、長期縦断研究
主な研究
1.中年期からの孤立予防
2.PDCAサイクルに沿った多様な通いの場の推進と評価
3.高齢期の健康・生活の縦断的変化と時代・地域差
研究紹介
当テーマでは、大都市の中高年者の特徴および社会動向をふまえ、中高年者の社会的つながりを促進するための基礎的・応用的研究を行います。
1.中年期からの孤立予防
単身世帯の高齢者の人口・割合は増加を続けており、東京では65歳以上の4人に1人がひとり暮らしです(2020年国勢調査)。単身高齢者は、配偶者と死別した女性が多いのですが、未婚率の上昇によって、男性単身者や未婚の単身者も急速に増えており、このような変化に対応した対策が必要となっています。
また、現在でも生活保護世帯の約半数は高齢者単身世帯ですが、中年世代では非正規雇用労働者数が増加していることから、今後、年金収入が少なく経済的に不安定な高齢者が増加することが懸念されます。先行研究によれば、経済的問題を抱える人ほど社会的に孤立しやすく、孤立や経済状態の悪さは心身の健康に悪影響を及ぼすなど、社会関係、経済・健康状態は相互に関連しており、複合的な問題に対処する必要があります。
本課題では、高齢期に孤立や生活困窮に陥るのを防ぐには早期の対策が重要との立場から、中年期から前期高齢期くらいまでの中高年者を対象に、①孤立に陥るライフコースのパターンとそのリスク要因、孤立や困窮状態に陥りながらも援助要請が抑制されるメカニズムを明らかにする基礎的研究、②孤立・困窮予防のためのプログラム開発と実装化に向けた応用研究を行います。
①に関しては、これまでに、生活困窮を経験した単身男性高齢者へのインタビューに基づき、生活困窮へと至ったライフコースの3つの類型(生涯型、離職型、退職型)を明らかにしました(Murayama Y et al., 2021)。また、無作為抽出された単身中高年者の郵送調査から、経済状態の悪さが援助要請を抑制する心理的な媒介要因を示しました(Murayama Y et al., 2022)。今後は、単身女性におけるモデルの構築や、縦断調査データを用いた孤立・貧困に陥る心理社会的なリスク要因などの分析に取り組む予定です。
②では、現在独居、あるいは将来独居となる可能性が高い中高年者(未婚の方など)が現状について回答することで、将来、孤立や困窮に陥るリスクが自身にどの程度あるかの認識を促す「一人暮らしライフスタイルチェックリスト」と、将来的な孤立・困窮のリスクが高い中高年を対象とした参加型プログラムの開発を行います。チェックリストやプログラムの内容だけでなく、地域での普及を目指し、チェックリスト配布や情報提供のあり方、参加者のリクルートやプログラムの運営方法などについても検討していきます。
2.PDCAサイクルに沿った多様な通いの場の推進と評価
通いの場は、「高齢者をはじめ地域住民が、他者とのつながりの中で主体的に取り組む、介護予防やフレイル予防に資する月1回以上の多様な活動の場・機会」と定義されます(植田ほか, 2022)。つまり、体操・運動に限らず、住民がそれぞれの特性や関心に応じて参加できる多様な取り組みを含むものであり、高齢者だけでなく、多世代の住民の参加も期待されています。通いの場づくりは、地域共生社会の実現に向けた地域づくりでもあります。
厚生労働省では、多様な取り組みを通いの場として捉えること、専門職の効果的関与、通いの場等の取り組みをPDCA(Plan, Do, Check, Action)サイクルに沿って推進することを推奨していますが(「一般介護予防事業等の推進方策に関する検討会 取りまとめ」, 2019)、具体的な推進方策や標準化された評価の枠組みの提示はなく、各自治体が手探りで進めているのが実状です。
2020~22年度にかけて、ヘルシーエイジングと地域保健研究テーマ(現:ヘルシーエイジング研究テーマ)では、「通いの場等の取り組みを評価する枠組み(ACT-RECIPE:通称、アクトレシピ)」や「通いの場の効果評価のためのロジックモデル」(下図)を構築し、その自治体向け手引書「PDCAサイクルに沿った通いの場の取組を推進するための手引き」を作成しました。
大都市社会関係基盤研究テーマは、これらの研究を引き継ぎ、開発されたツール等を用いて、①多様な通いの場の推進に資するエビデンスの提示とその効果検証を目的とした疫学的分析(観察型研究)、②PDCAサイクルに沿った通いの場等の取り組みを推進するための地域介入研究(アクションリサーチ)を行います。また、通いの場の運営には住民参加が不可欠であることから、③通いの場の「担い手」としての住民参加促進のための研究にも取り組みます。これにより、高齢者の健康維持や生きがいにつながる多様な「通いの場」を、自治体と住民が協働して進めるためのシステムの構築を目指しています。
なお、本課題の一部は、東京都介護予防・フレイル予防推進支援センターと連携して実施しています。
図:効果評価のロジックモデル
出典:PDCAサイクルに沿った「通いの場」の取組を推進するための手引き
3.高齢期の健康・生活の縦断的変化と時代・地域差
本課題は、東京LSAの一部である「全国高齢者の健康と生活に関する長期縦断研究(JAHEAD)」に基づきます。JAHEAD(Japanese Aging and Health Dynamics; National Survey of the Japanese Elderly, NSJE)は、全国から無作為抽出された60歳以上を対象として1987年に開始し、新規標本の追加を行いながら継続している長期縦断研究であり、2021年までに計10回の訪問調査を実施しました。調査方法やこれまでの研究成果については、調査のホームページをご参照ください。
引き続き、社会関係・社会参加やそれらの基盤となる家族・健康・経済状態等の実態や加齢変化、健康・ウェルビーイング(生活満足度など)を予測する要因の検討を行いますが、地域差や時代的・世代的変化に焦点を当てた研究も推進します。
地域差としては、全国データの特性を生かし、大都市の高齢者が、それ以外の地域との比較においてどのような特徴を持つかを明らかにします。時代的・世代的変化としては、調査年や出生コホートによる違いのほか、新型コロナウイルス感染症流行の影響にも注目しています。第10回調査は新型コロナ流行下の2021年に実施しましたが、第11回調査は2024年を予定しており、どのような人が感染症流行の影響を受けやすかったのか、あるいは回復が難しかったのかなどの個人差についても検証していく予定です。
主要文献
- Seino S, Abe T, Nofuji Y, Hata T, Shinkai S, Kitamura A, Fujiwara Y. Dose-response associations of physical activity and sitting time with all-cause mortality in older Japanese adults. Journal of Epidemiology, 34(1), 23-30, 2024. https://doi.org/10.2188/jea.JE20220246
- 森裕樹, 清野諭, 山下真里, 横山友里, 植田拓也, 小林江里香, 藤原佳典. 大都市在住の後期高齢者における通いの場への参加状況とその関連要因:新型コロナウイルス感染症拡大前後の比較検討. 応用老年学, 印刷中.
- Murayama Y, Yamazaki S, Hasebe M, Kobayashi E. Effects of adverse life events on mental health in single older adults in Japan. Psychogeriatrics, 23(5), 838-346, 2023. https://doi.org/10.1111/psyg.13007
- Murayama Y, Hasebe M, Yamazaki S, Yamaguchi J, Kobayashi E. Social work for vulnerable and marginalized people during COVID-19 in Japan. Asian Social Work and Policy Review, 17(3), 162-175, 2023. https://doi.org/10.1111/aswp.12282
- Kobayashi E, Harada K, Okamoto S, Liang J. Living alone and depressive symptoms among older Japanese: Do urbanization and time period matter? The Journals of Gerontology, Series B: Psychological Sciences and Social Sciences, 78(4), 718-729, 2023. https://doi.org/10.1093/geronb/gbac195
- Okamoto S, Kobayashi E, Komamura K. The retirement-health puzzle: A sigh of relief at retirement? The Journals of Gerontology, Series B: Psychological Sciences and Social Sciences, 78(1), 167-178, 2023. https://doi.org/10.1093/geronb/gbac127
- Seino S, Nofuji Y, Yokoyama Y, Abe T, Nishi M, Yamashita M, Narita M, Hata T, Shinkai S, Kitamura A, Fujiwara Y. Combined impacts of physical activity, dietary variety, and social interaction on incident functional disability in older Japanese adults. Journal of Epidemiology,33(7), 350-359, 2023. https://doi.org/10.2188/jea.JE20210392
- 小林江里香, 根本裕太. 通いの場の担い手としての住民参加-都市部の中高年者におけるニーズの分析. 老年社会科学, 45(3), 255-263, 2023.
- 小林江里香, 村山陽, 長谷部雅美, 高橋知也, 山口淳, 山崎幸子. 都市部の中高年独居者における心身の健康、経済状態、社会関係上の問題による類型化と類型別特徴. 社会福祉学, 64(1), 61-74, 2023.
- 小島みさお, 東畠弘子. 認知症在宅要介護高齢者における紙おむつの選定についての福祉用具専門相談員の実態と選定困難意識.自立支援介護・パワーリハ学会誌, 17(2), 38-45, 2023.
- 小島みさお. 男性家族介護者による排泄ケアの実態と意識:首都圏で暮らす男性家族介護者の語りから.シニア社会学会誌 エイジレスフォーラム, 21, 19-29, 2023.
- 森裕樹,倉岡正高,相良友哉,藤原佳典. 通いの場における多世代住民の参加実態と運営上の課題:全国のシルバー人材センターを対象とした調査分析.日本世代間交流学会誌13(1),3-11,2023.
- Murayama Y, Yamazaki S, Hasebe M, Takahashi T, Yamaguchi J, Kobayashi E. Psychological factors that suppress help-seeking among middle-aged and older adults living alone. International Journal of Environmental Research and Public Health, 19(17):10620, 2022. https://doi.org/10.3390/ijerph191710620
- Seino S, Shinkai S, Kitamura A, Nofuji Y, Yokoyama Y, Hata T, Fujiwara Y. Impact of the first-fourth waves of the COVID-19 pandemic on new applications for long-term care insurance in a metropolitan area of Japan. Journal of Epidemiology, 32(11), 524-526, 2022. https://doi.org/10.2188/jea.JE20220084
- Kobayashi E, Sugawara I, Fukaya T, Okamoto S, Liang J. Retirement and social activities in Japan: Does age moderate the association? Research on Aging, 44(2), 144-155, 2022. https://doi.org/10.1177/01640275211005185
- Murayama Y, Hasebe M, Nishi M, Fujiwara Y. The effects of reciprocal support on mental health among intergenerational non-relatives: A comparison by age group. Archives of Gerontology and Geriatrics, 2022, 99:104601. https://doi.org/10.1016/j.archger.2021.104601
- Murayama Y, Yamaguchi J, Yasunaga M, Kuraoka M, Fujiwara Y. Effects of participating in intergenerational programs on the development of high school students' self-efficacy. Journal of Intergenerational Relationships, 20(4), 406-423, 2022. https://doi.org/10.1080/15350770.2021.1952133
- Seino S, Kitamura A, Abe T, Taniguchi Y, Murayama H, Amano H, Nishi M, Nofuji Y, Yokoyama Y, Narita M, Shinkai S, Fujiwara Y. Dose-response relationships of sarcopenia parameters with incident disability and mortality in older Japanese adults. J Cachexia Sarcopenia Muscle, 13(2), 932-944, 2022. https://doi.org/10.1002/jcsm.12958
- 小林江里香, 植田拓也, 高橋淳太, 清野諭, 野藤悠, 根本裕太, 倉岡正高, 藤原佳典.「通いの場」の類型別にみた参加者の多様性と住民の主体性:高齢者が参加する都市部の自主グループ調査から.日本公衆衛生雑誌, 69(7), 544-553, 2022. https://doi.org/10.11236/jph.21-138
- 植田拓也, 倉岡正高, 清野諭, 小林江里香, 服部真治, 澤岡詩野, 野藤悠, 本川佳子, 野中久美子, 村山洋史, 藤原佳典.介護予防に資する「通いの場」の概念・類型および類型の活用方法の提案.日本公衆衛生雑誌,69(7), 497-504, 2022. https://doi.org/10.11236/jph.21-140
- 村山陽. 地域社会共生に向けた孤立・孤独対策,老年医学,60(8),723-726, 2022.
- Murayama Y, Hasebe M, Nishi M, Fujiwara Y. The impact of mutual aid on mental health and perceived isolation among the single elderly: An examination of economic status. Geriatrics & Gerontology International, 21(7), 555-560, 2021. https://doi.org/10.1016/j.archger.2021.104601
- Murayama Y, Yamazaki S, Hasebe M, Takahashi T, Kobayashi E. How single older men reach poverty and its relationship with help-seeking preferences. Japanese Psychological Research, 63(3), 406-420, 2021. https://doi.org/10.1111/jpr.12329
- Seino S, Tomine Y, Nishi M, Hata T, Fujiwara Y, Shinkai S, Kitamura A. Effectiveness of a community-wide intervention for population-level frailty and functional health in older adults: a 2-year cluster nonrandomized controlled trial. Prev Med, 149, 106620, 2021. https://doi.org/10.1016/j.ypmed.2021.106620
- Seino S, Nofuji Y, Yokoyama Y, Tomine Y, Nishi M, Hata T, Shinkai S, Fujiwara Y, Kitamura A. Impact of the first wave of the COVID-19 pandemic on new applications for long-term care insurance in a metropolitan area of Japan. J Epidemiol, 31(6), 401-402, 2021. https://doi.org/10.2188/jea.JE20210047
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- 村山陽, 山崎幸子, 長谷部雅美, 高橋知也, 小林江里香. 単身男性中高年者における将来展望を抑制する意識の検討. 老年社会科学, 43(1), 26-35, 2021. https://doi.org/10.34393/rousha.43.1_26
- 小林江里香, 原田謙, 斎藤民. 都市部の中高年就労者における地域活動への参加-仕事特性および主観的ウェルビーイングとの関連. 老年社会科学, 43(1), 36-48, 2021. https://doi.org/10.34393/rousha.43.1_36
- 村山陽,竹内瑠美,安永正史,山口淳,藤原佳典. 小学校における高齢者の読み聞かせボランティア活動が児童の共感的関心の向上に及ぼす影響:親密な関係性の構築に着目して. 日本世代間交流学会誌, 11(1), 13-22, 2021.
- Seino S, Kitamura A, Abe T, Taniguchi Y, Yokoyama Y, Amano H, Nishi M, Nofuji Y, Narita M, Ikeuchi T, Fujiwara Y, Shinkai S. Dose-response relationships between body composition indices and all-cause mortality in older Japanese adults. J Am Med Dir Assoc, 21(6):726-733.e4, 2020. https://doi.org/10.1016/j.jamda.2019.11.018
- 清野諭, 北村明彦, 遠峰結衣, 田中泉澄, 西真理子, 野藤悠, 横山友里, 野中久美子, 倉岡正高, 天野秀紀, 藤原佳典, 新開省二. 大都市在住高齢者のフレイルの認知度とその関連要因. 日本公衆衛生雑誌, 67(6), 399-412, 2020. https://doi.org/10.11236/jph.67.6_399
- Seino S, Kitamura A, Tomine Y, Tanaka I, Nishi M, Taniguchi YU, Yokoyama Y, Amano H, Fujiwara Y, Shinkai S. Exercise arrangement is associated with physical and mental health in older adults. Med Sci Sports Exerc, 51(6), 1146-1153, 2019. https://doi.org/10.1249/MSS.0000000000001884
- Seino S, Kitamura A, Tomine Y, Tanaka I, Nishi M, Nonaka K, Nofuji Y, Narita M, Taniguchi Y, Yokoyama Y, Amano H, Ikeuchi T, Fujiwara Y, Shinkai S. A community-wide intervention trial for preventing and reducing frailty among older adults living in metropolitan areas: Design and baseline survey for a study integrating participatory action research with a cluster trial. J Epidemiol. 29(2),73-81, 2019. https://doi.org/10.2188/jea.JE20170109
- Murayama Y, Yamazaki S, Yamaguchi J, Hasebe M, Fujiwara Y. Chronic stressors, stress coping, and depressive tendencies among the elderly. Geriatrics & Gerontology International, 20(4),297-303, 2019. https://doi.org/10.1111/ggi.13870
- Murayama Y, Murayama H, Hasebe M, Yamaguchi J, Fujiwara Y. The impact of intergenerational programs on social capital in Japan: a randomized population-based cross-sectional study. BMC Public Health, 19(156), 2019. https://doi.org/10.1186/s12889-019-6480-3
- Kobayashi E, Sugihara Y, Fukaya T, Liang J. Volunteering among Japanese older adults: How are hours of paid work and unpaid work for family associated with volunteer participation? Ageing and Society, 39(11), 2420-2442, 2019. https://doi.org/10.1017/S0144686X18000545
- 清野諭, 野藤悠.地域における介護予防のエビデンス.体力科学, 68(5), 327-335, 2019.
- 村山陽, 長谷部雅美, 高橋知也, 小林江里香. 首都圏に居住する単身世帯の中高年者における近隣との世代間交流の必要性の認識:同居世帯の中高年者との比較から. 日本世代間交流学会誌, 9(1),3-11,2019.