網膜静脈閉塞症

網膜静脈閉塞症とは

網膜静脈閉塞症は、網膜の静脈が詰まる病気

 網膜(眼球をカメラに例えると、フィルムにあたる部位)には多くの血管(動脈と静脈)が走り、網膜に酸素や栄養を運んでいます。動脈は、心臓からからだの様々な部位に向かって血液が流れる管(くだ)で、厚い壁があります。一方、静脈はからだの組織から心臓に向かい血液が流れる管で、その壁は動脈よりも薄いです。

 網膜ではところどころで動脈と静脈が交差するため、その交差点では壁の薄い静脈が押しつぶされて血液が固まることで、網膜静脈閉塞症が起こります。多くは動脈硬化(動脈の壁が硬くなる)が原因で、中高年以降に起こりやすい病気です。高血圧や糖尿病、高脂血症(脂質異常症)などの病気があると、より起こりやすくなるので、目の治療だけでなく内科の治療を受けることも大切です。また若い人では、血管の炎症が原因で血液が固まり、網膜静脈閉塞症をおこす場合があります。

網膜静脈閉塞症には、2種類あります

 網膜静脈閉塞症には、網膜静脈分枝閉塞症と網膜中心静脈閉塞症の2つがあります。網膜の血管は、視神経乳頭を中心に放射状に広がっていますが、枝分かれした静脈の一部が詰まるのが網膜静脈分枝閉塞症(図1)で、網膜からの血液が心臓に向かって集まる根本の部分(視神経乳頭部)で静脈が詰まるのが網膜中心静脈閉塞症(図2)です。

図1 網膜静脈分枝閉塞症の眼底写真

図2 網膜中心静脈閉塞症の眼底写真

網膜静脈閉塞症の症状は、血管が詰まる部位によって違います

 静脈が詰まると、その部位より先(からだの組織側)の血液が心臓に向かって戻れなくなるため、血がにじんで出血したり、水が漏れて網膜がむくんだりします(浮腫)。それが網膜の中心部(黄斑部)で起こると、ものがゆがんで見えたり、視力が低下しますが、網膜の中心以外の場所で起きると無症状のため、偶然健康診断などで眼底検査を受けることがなければ、気づかれません。

 また、中心以外でも広い範囲の網膜からの血液の戻りが悪くなると、網膜は酸素不足の状態になり、やがて新生血管と呼ばれる脆くて切れやすい血管が生えてきて、硝子体と呼ばれる部分に大きな出血(硝子体出血)を引き起こすと急に視力が低下します。また新生血管が隅角と呼ばれる部分に生えると重い緑内障(血管新生緑内障)になり、失明する場合もあります。網膜静脈分枝閉塞症よりも網膜中心静脈閉塞症のほうが、より広い範囲の血液の流れが悪くなるので、血管新生緑内障になる危険は高くなります。

蛍光眼底造影検査について

 蛍光色素(特殊な光をあてると白く光る)を含んだ造影剤(フルオレセイン)を腕の静脈から注射して点滴をしながら、眼底の血管に流れているところを特殊な眼底カメラで撮影し、眼底の血管や血液の流れの状態を調べる検査です。静脈が詰まって、血が流れなくなっている部位や、酸素不足が起きているかどうか、新生血管と呼ばれる病的な血管があるかどうか、また血管の壁がもろくて水が漏れ出す状態を調べることで、詳しい病状がわかります。検査は散瞳剤(ひとみを開く目薬)を点眼してから瞳孔を開いた状態で行い、何枚も写真を撮影します(図3)が、通常の眼底カメラより、まぶしく感じます。

 造影剤のフルオレセインはオレンジ色をしているので、検査後顔の色が黄色くなったり、翌日まで尿が濃いオレンジ色に染まります(造影剤が尿で体の外に出てゆきます。)が、これは正常の反応です。しかしフルオレセインに対する副作用が出ることがあり、喘息などアレルギー体質がある方や心臓などの重い病気がある方では検査ができない場合があります。たいへんまれにアレルギー性ショック症状(血圧低下、意識消失など、重い場合は死亡に至る。)を起こすことがありますので、この場合は緊急の処置を行います。

図3 網膜静脈分枝閉塞症の蛍光眼底造影写真

抗VEGF薬硝子体注射療法(抗VEGF療法)について

 網膜の中心部分である黄斑にむくみ(浮腫)が起こる(図4A)と、ものがゆがんで見えたり、暗く見えたり、視力が低下するなどの症状があらわれます。このむくみを調べるためには、光干渉断層計(OCT:Optical Coherence Tomography)という、網膜の断面を撮影する器械を使います。(図4BC)このむくみには、体内の血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor: VEGF)という物質が関わっているので、VEGFの働きを抑える薬を目の中に注射することで、むくみを減らす治療(図5)が、抗VEGF薬硝子体内注射です。この治療は、網膜静脈閉塞症以外に、加齢黄斑変性糖尿病黄斑浮腫などにも行っている治療です。

図4

図5

抗VEGF薬硝子体内注射の方法

 手術室で、麻酔の目薬を点眼し、目の周りを消毒し、大変細い針で抗VEGF薬を眼内に注入します(図6)。1回の注射は短時間で終わります。非常にまれですが、硝子体注射の傷口から細菌が入り眼内炎という感染症を起こすことが報告されているため、抗生物質の点眼を行います。

図6 VEGF療法

 1回目の注射の後は、病気の状態により追加治療が違います。1か月ごとに数回注射(2-3回)をする方法、むくみが再発したら注射する方法、再発する期間を予測してむくむ前に注射をする方法などがあります。どの方法も、なるべく視力を落とさないように、また注射の回数や病院に来る回数が少なくてすむように、ということを考え、個々に合った治療法を提案しています。また、この病気は、高血圧と関係が深いので、血圧が高いまま放置しているよりも、高血圧を治療するほうが再発しにくくなり、注射の回数が少なくなるともいわれています。

レーザー治療について

 静脈が詰まった結果、血の流れが途絶えて酸素不足を起こした網膜が広範囲に広がると網膜に新生血管が生えてきて、硝子体出血を起こしたり、隅角に新生血管が生えて緑内障になるため、レーザー治療が必要になります。(図7)レーザー治療により、新生血管が生えるのを予防するだけでなく、すでに新生血管が生えていても、硝子体出血を起こしにくくする効果があります。

図7

レーザー治療の方法

 麻酔の目薬をつけてからレーザー治療専用のレンズを黒目の上にのせて行いますが、目の奥の鈍痛を感じることもあります。血管が詰まる場所により、酸素不足となった網膜の広さが異なるため、必要となるレーザー照射数は違います。網膜中心静脈閉塞症では網膜全体に多くのレーザー照射が必要ですので、数回に分けて治療を行います。外来通院で行う治療ですが、1回に数十発、数百発のレーザー照射をするので、約15-30分程度の時間を要します。

網膜静脈閉塞症で硝子体手術が必要になる場合とは

 網膜静脈閉塞症は、網膜の中心(黄斑部)に出血やむくみが起こらなければ症状が全くないため、長い間気づかれません。その後無症状のまま新生血管が生えてきて、ある日突然新生血管が切れて、硝子体出血を起こし急激に視力が低下してしまうことがあります。このように網膜静脈閉塞症によって起こる硝子体出血は、網膜の中心以外の部位で血管が詰まった後で起こることが多いのです。血管が詰まってすぐに視力が落ちないという点ではよいですが、無症状で知らないうちに網膜の酸素不足が進み、新生血管まで作られてしまうという点では、困った病気の一つです。出血のために硝子体(水晶体と網膜の間にある透明なゼリー状の組織)が濁ってしまった場合は、硝子体手術が必要になります。

硝子体手術については、眼科HP内の「硝子体手術について」をご覧ください。